トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

特別編 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 理事長 近藤達也氏

RAD-AR News Vol.27-No.2(2016.10)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。 
今回は、特別編として独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 理事長 近藤達也氏との対談をお伝えします。

 

薬の適正使用は、
医療の安全を左右する大きな鍵の一つ

世界の「トップリーダー」を目指して

-まず黒川理事長から、PMDAについての印象をお話しください。

黒川

 長年、PMDAとかかわらせていただきましたが、一番強い印象は、2008年に近藤理事長が就任された後、PMDAが大きく変貌を遂げたことです。まず理念を制定され、それに従って国民や患者さんの願いに叶い、またプロフェッショナルの期待に応えるレベルで世界に対して発信していくというドラスティックな改革を実行されました。世界に対しても、日本のPMDAここに在りという存在感をしっかり示されました。かつてお世話になった者として今日お会いできたことを心から喜んでおります。

近藤

kanshajo

 過分なお言葉、恐れ入ります。黒川理事長がおっしゃるとおり、就任して最初に取り組んだのは信頼される組織になるための理念づくりです。侍に武士道があるように、組織にもしっかりとした構想やものの考え方、行動規範が必要です。1人でつくると偏ってしまいますから、当時在籍していた450名全員に声を掛けて、どういう理念が良いのか、皆で考えてつくり上げていきました。まとめるのに半年ほどかかりましたが、全員でつくったという実感があり、組織の中に理念を染み渡らせることができました。

 理念を支えているのは、我々の活動は国民のために行っているという考えです。組織の内外には、医師や看護師、薬剤師、事務の方などさまざまな立場の関係者がいるわけで、それぞれの立場で意見の対立はどうしても出てきます。その際の判断の基準は、国民や患者さんにある。その基本を理念の骨格の中心に置きました。

-PMDAの大きな柱として、国際化も掲げておられます。

近藤

 もともと規制当局というのは、自国民の命と健康を守る使命があります。しかし、医薬品は世界共通のものですから、国際的な協調は絶対に必要です。その中でも、数多くの日本初の薬を産み出し、独創的な考えを持つ日本こそ、世界の薬事をリードすべき存在です。世界の三大薬事国を目指して活動してきましたが、私としてはだいたい達成されたと思っています。

簡単に情報を得られる「くすりのしおり®」

-医薬品医療機器法に「国民の責務」として国民が薬の適正使用について責任を持つことが明示されましたが、近藤理事長はどのような印象を持っていらっしゃいますか。

近藤

 あらゆる場面において、国民全体が自立して責任を担うことは必要ですが、薬についても個人の責任が明確に記されたのは素晴らしいことと思います。一方で、協議会が実施したアンケート結果をみると、薬の使用実態に驚かされます。特に患者さんが薬を使い回しているのは怖いことで、あってはならないこと。理想と現実の乖離は大きそうですね。協議会ではどのようなことに取り組んでいるのですか。

黒川

 薬の適正使用を実現していくために、協議会では「くすりのしおり®」の作成に取り組んでおり、PMDAのホームページ からもダウンロードできるようにしていただいています。製薬企業の責任のもと、A4判1枚のサイズにその薬のエッセンシャルな情報を書き出したもので、これを片手に薬の プロフェッショナルが患者さんに説明したり、患者さんが自分でダウンロードしたりして活用いただいています。日本語版は約1万5,000件、英語版も充実させています。

近藤

 小さい字で書かれた添付文書は、なかなか読むのが辛いですよね。「くすりのしおり®」は、ポイントがまとめられていて読みやすい。一般に説明書というものは、なかなか全部が読まれることは少ないものです。しかし、薬はどうしても読んでもらわなければ健康や生命にかかわりますから、必要最低限のことを簡単に読んでもらえる形にしておくことは大きな意味がありますね。

薬教育では厳しい話を

黒川

 一昨年、協議会は設立25周年記念シンポジウムを開催しました。薬剤師会の先生、メーカー、さらに薬事・食品衛生審議会の医薬品安全対策部会のメンバーでもあった「納得して医療を受ける会」の倉田雅子先生にお話いただきました。その中の一言が大変印象に残っています。「新しく法律に1行入ったからといって、次の日から変わるわけではない、今まで放っておいて、いきなり義務があると言われてもどうしようもない」と。

 協議会が薬の適正使用推進を看板に掲げているのであればもっと働くように、と叱咤激励された思いでした。国民の皆様に認識を改めていただき、行動変容まで促していくことが、協議会が取り組むべき大きなテーマと考えます。

近藤

 患者さん、国民の方々にとって、「これは自分自身の責任なのだ」ということを自覚していただく運動だということですね。健 康な人はなかなかこういう話には耳を傾けないでしょうから、地道に着実に、手を変え品を変え続けていく取り組みだと思います。

黒川

 釈迦に説法ですが、医薬品の一つひとつは、製薬企業や研究者の方々が5年、10年かけ、1, 000億円以上の費用を注ぎ 込んでやっと一粒の錠剤になるわけです。それが最後の段階で適正に使用されなければ、それまでの努力が水の泡になってしまいます。もちろん薬の安全性についてはPMDAが法律的な責任を担って主導的に進めておられるわけですが、私たちも何か貢献できればと考えています。

-協議会では、中学・高校向けの薬教育の支援活動を行っています。医薬品のリテラシーを幼いうちからきちんと身につけることの大切さについてどのように思われるでしょうか。

近藤

 これは学校教育で行うべきことですね。もちろん家庭でも取り組むべきですが、基本は全国民が等しく身に付けなければいけないものです。薬に作用があるということは、副作用もあるということ。それは知っておかなければなりません。

黒川

 今の世の中は興味を引く情報がたくさんありますから、なかなかこうした情報は伝わりにくくなっています。さらに、自治体によっては高校生くらいまで医療費補助があって、薬に対する患者さんの経済的負担が極めて少なくなっているところもあります。薬の適正使用をいくら説明しても、なかなか自分事として捉えられなくなっています。

 幸い我々の活動は、現場の先生方からご高評をいただいています。規模は小さいですが、誰かがやらなければいけない事業ですので、ぜひ力を入れていきたいと思っています。

近藤

 指導する際は、厳しい話、怖い話もしっかりしたほうがいいですね。新しい薬などは効果が鋭い分、厳格な使用が必要な製品もあります。楽しい話は記憶に残りにくいものです。薬の適正使用は国民の義務である、本人の責任であるとはっきり言う必要があるでしょう。

黒川

 一般社団法人というポジションで、薬のメリットと同時に、そのデメリットを恐れずに伝えていく。ここはきちんと担っていきたいと思います。

日本は、世界で最も早く安全対策をとる国に

-PMDA理事長のお立場から、協議会に今後どのようなことを期待されますか。

近藤

 さまざまな施策を進められるのであれば、きちんと成果を出すことにこだわっていただきたいですね。先ほどの教育へのサポートにしても、思いつきではなく、掲げた目標に対して確実に成果をあげるための戦略をしっかり描き、効果的に進めていかれることを期待します。

黒川

 設立から約25年は任意団体として活動していました。今後活動の幅を広げるために法人格を取得して、社会全体に対し て透明性を確保しつつ活動していくという「契約」を結んだわけです。実績を積むことで各方面からの理解を深め、将来はたとえば公的な研究の一翼を担うことができればと考えています。インターネット調査などで、協議会はノウハウを重ねつつありますし、また設立当初から薬剤疫学を一つの大きな柱として普及啓発を進めてきました。その一例として、製薬企業から再審査申請用のデータ、使用成績調査などのデータを提供いただき、降圧剤、経口抗菌剤、高脂血症用剤について症例データベースを構築し、薬剤疫学研究に活用していただいています。併せて、薬剤疫学的手法を使える人材育成にも力を入れてきました。機会がありましたらそうしたものもぜひお使いいただければと思っています。

-PMDAでも、MIHARI Project※の一環として全国の拠点病院のレセプトや電子カルテ情報を集約・分析するMID-NET※を構築しておられますね。

近藤

kanshajo

 日本は新薬の承認数でも世界一が見えてきました。国民皆保険により、1億2,000万人にあっという間に薬が普及する可能性のある国でもあります。裏を返せば、おそらく世界で最も早く副作用が見つかる国なのかもしれません。新薬の早期承認もさることながら、副作用を一早くキャッチし対応するのはPMDAの重要な義務です。その義務をどう果たすかというと、今までは製薬企業、病院、個人からの症例報告等を情報源にしていました。ですが、これらはあくまでも受け身の情報収集です。もっと能動的に情報を取りに行き、実際に社会でどんなことが起こっているか、電子化された情報の中からリアルタイムに見ていかなければならない。そこで、MIHARIやMIDNETなどの仕組みを組み立ててきたわけです。

収集したデータの規格を統一

-現状はどれくらい進捗されているのでしょう。

近藤

 まだ道半ばですが、MID-NETでは診療情報、つまり電子カルテについて、全国10カ所の拠点、23の大学病院や研究機関の情報を集めて、データの規格を統一することを目指しています。具体的には、カルテの符号を統一して、自動的に匿名化した情報としてPMDAに集められるようにします。加えて、ナショナルデータベース*やDPC*データをリンクさせます。つまり、単に診療情報を集めるだけではなく、それに付加的なナショナルデータベースまで結合す ることで、様々な角度の情報が入ってくるようになります。すると、ある薬を使ったら肝機能や腎機能がどうなるか、白血球や赤血球がどうかといったことが見えてきます。そのデータから、治験等で見えていなかったその薬の影響を見つけ出すことができるようになります。

黒川

 素晴らしい取り組みです。大変期待しております。

近藤

 おそらく日本初の試みですから、その成果はさまざまな立場の方々から関心を持たれていると思います。いろいろなことができるかもしれませんが、我々としては一番の目的はあくまで安全性情報です。安全性情報をどれだけしっかりキャッチできるかが、第一義的な命題です。安全対策は徹底的に行います。

 データを集めるというのは一見簡単そうですが、クオリティの高いものをつくるためには徹底的な仕事が必要です。PMDAでは今、約30人のスタッフが全国を飛び回って一生懸命データを集め、そのデータを精査しているところです。

黒川

 私は安全対策のキャリアが一番長かったのですが、症例報告の中から問題を特定する能力というものは、どうしてもトレーニングを受けた属人的なもので、限界を感じていました。副作用報告は、法に定められたものだけでも年間約5万件。なかなか人間の力の及ぶところではありません。もしデータベースができれば、それを精査することによって問題点は自ら浮かび上がってくるわけですね。私たちが若いころは歯ぎしりしてもできなかったことが、いまようやく現実になろうとしている。これはPMDA、製薬企業、医療従事者、そして患者さんにとって大きな福音です。

近藤

 来年以降、具体的なものが出てくれば、ご協力いただくこともあるかと思いますのでよろしくお願いします。

適正使用は救済の条件

-読者の方へメッセージを頂戴できればと思います。

近藤

 製薬企業の方々には、薬の副作用対応を十分考慮して、医療関係者にも患者さんにも使い方についてしっかりとご指導いただきたいと思います。

 患者さんと直接の接触がある薬剤師の皆さんには、曖昧な言い方ではなく、プロフェッショナルとして上手に言うべきことは言っていただきたいですね。

黒川

 薬剤師には薬剤師法で調剤時の情報提供に加えて指導の義務が明示され、患者さんの責任も明らかになり、制度面で入れ物はできつつあります。そこにどう魂を入れるか。関係者全員の相当な努力が求められていると実感しています。

近藤

 製薬企業はもちろんですが、医者の責任、薬剤師の責任、患者さんの責任、この3つの責任が今後重要になってくるわけですね。

 結局、医療の安全というのは、薬の使い方が大きなカギになっているわけです。PMDAの大切な業務の一つに、発生した被害を救済する「医薬品副作用被害救済制度」がありますが、救えるのは薬を正しく使ったときだけで、不適切に使ったときには救済することはできません。この事実はもっと伝えていかなければいけません。不利益を被るのは患者さんですから。

 この救済という独創的で日本の誇るべき制度は、これから世界に普及するかもしれません。例えば再生医療分野については、フェーズⅡの段階で早期に承認を行う条件及び期限付き承認制度があります。再生医療は、従来のフェーズⅢで取り組むべき用量設定などの考え方がそぐわないことから、安全性をしっかり見るという条件のもとで承認しているわけです。さらに日本は、そこに既存の救済制度を加えることで、副作用が発現した場合は国がしっかり責任をもって救っていくという姿勢を明らかにしています。こうした考え方は今後世界的に、特に西欧では関心を持たれるようになるでしょう。国として国民に対する責任を果たしていく姿勢を徹底しているという意味でも、日本の薬事制度というのは先進的で非常に素晴らしいと思いますね。

黒川

 今日は学ぶところが多々あり、元気をいただきました。PMDAの理念のもと、多様で専門的な背景、価値観を持つ集団のエネルギーを集約した戦略は、何度素晴らしいと言っても言い足りません。PMDAにガバナンスがしっかり効いていることに、国民は安心し、信頼を寄せているのだと改めて心に刻んだ次第です。そしてトップとして、「やる」「やらない」という明確な決断と、よく見えるリーダーシップを発揮することの大切さを教えていただきました。さまざまな考 え方がある中で、しっかりと方向性を指し示す、そういう姿勢を私も吸収して、協議会としても業務に活かしていきたいと思います。