トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

特別編 公益社団法人 日本薬剤師会 山本 信夫 氏

RAD-AR News Vol.27-No.1(2016.6)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。 
今回は、特別編として日本薬剤師会の山本会長との対談をお伝えします。

 

専門職-プロフェッション-として、
「国民の健康な生活を確保する」
それが薬剤師の責務

医薬分業の本質を考える時代に

-まず、黒川理事長から日本薬剤師会とのこれまでの関わりとその印象についてお聞かせください。

黒川

 行政に携わった35年間、日本薬剤師会の諸先生方、先輩方にはさまざまなところでご指導いただきました。特に医薬品の適正使用の取り組みでは、日本薬剤師会の皆様の後押しをいただき、サイドバイサイドでお付き合いさせていただきました。
 行政を退いてからも、医療の第一線における皆様の活躍を目の当たりにし、協議会としてぜひご一緒に仕事ができたらと考えていたところ、本日お話を伺う機会を得ることができました。
 また、薬学6年制教育の導入についても各方面のご理解をお願いしてきましたが、ここに来て、あのときの努力は間違っていなかったという思いを新たにしています。

山本

kanshajo

 私も6年制教育の実現を大変喜ばしく感じています。6年制にした意義がきちんと表れるよう、学校側との調整はこれからも進めていきたいと思います。
 日本薬剤師会にとって、医薬品の適正使用は最大の眼目です。いくら制度が変わってもそこがしっかりしていなければ、薬剤師の薬剤師たる所以が失われてしまいます。その原点は大切にしたいですね。

-日本薬剤師会の現在の課題について教えていただけますか。

山本

 最大の問題はやはり組織率です。日本の薬剤師数は約30万人。うち会員となっているのは3分の1です。多くの会員が集い、薬剤師として目指す未来を一緒に推進できる組織づくりを続けていく必要があります。
 もともと薬剤師は明治期に欧州から導入された概念です。個人的な見解ではこのとき入れ物はできたものの、魂をこめきれないまま時が過ぎてしまいました。ようやく、我々が目指してきた医薬分業の目的や本来的な役割について議論ができる時代に入ってきました。国際標準のセルフメディケーションの潮流の中で、医薬品使用の安全性を担保するのは薬剤師以外にないと思っています。薬剤師会は創立以来130年間、かかりつけ薬剤師、かかりつけ薬局を主張してきて、ようやくそれが政策となりました。それが昨年示された「患者のための薬局ビジョン」と「健康サポート薬局」です。国民の方々にも薬剤師から医薬品を手にすることが最も安全で効率的だと理解していただくような運動を進め、また、会員指導をしていくのが今後10年間の課題だと思っています。

黒川

 協議会も27年目を迎え、その間、医薬品の適正使用の推進を様々な形で進めてきたわけですが、やはり、医療の第一線にいる薬剤師の先生と患者さんの生き生きとした情報のやり取りを通じて、自分の病気を薬でどう克服していくのかというところに、協議会の「くすりのしおり®」などの情報や、あるいは公教育を背景とした基礎的なリテラシーが発揮されるのではないかと考えています。

ドラッグをメディシンにするのは薬剤師

-医薬品医療機器法の改正で、医薬品の適正使用における国民の責務が位置付けられました。この変更をどのように受け止めていらっしゃいますか。

山本

 医薬品医療機器法の「国民の役割」は一見地味ですが、きわめて大きな法律改正だと認識しています。これまで国は長い間、「薬と健康の週間」を10月に設け、医薬関係者が国民に向けて啓発運動を行ってきました。ただ、この法律ができるまでは薬剤師会と厚生労働省が勝手にやっているという位置付けだったわけです。これが法律改正後は、「薬と健康の週間」で実施していることがまさに法律事項であると位置づけられました。薬剤師として歓迎すべきことですし、この法律を活かし、国民に対して医薬品の安全性なり適正使用なりの啓発を仕組みとして実行していかなければなりません。
 その際、国民のリテラシーの差が大きい中で、画一的な啓発活動ではおそらく誤った認識をされてしまう。ですから、そうした差を踏まえて進めていくことが大切です。
 先ほど触れたとおり、薬剤師というのは欧州から導入された概念で、毒を恐れて薬剤師という仕組みを作った西洋と、植物をかじって薬にした東洋では、基本的に薬に対するスタンスが違うのですね。「薬は安全で予防や栄養補給的に使う」というのは極めて東洋的な発想で、その長年受け継がれる意識を変えるのは容易ではありませんが、その文化を変えていく努力が、医薬品を扱う者、医療にかかわる者に求められているのだと思います。

黒川

 お話のとおり文化は簡単には変わりませんが、インターネットなどに象徴されるように社会はとてつもない速さで変化していきます。また薬にしても、昔は病原微生物などを対象としていたものが、今や老化や遺伝子レベルへと変化しています。従来の知識や認識では有効性や安全性を必ずしも担保できなくなっていますから、自分の健康は自分で守るというセルフメディケーションの視点、また自ら知ろうとする姿勢が重要です。同時に、長年薬に携わり、製薬企業が作る薬の有効性、安全性に目を光らせてきた薬剤師の先生こそが、文化のパラダイムシフトを起こす働きかけができるのではないかと期待しています。そのお手伝いとして、我々も医薬品の適正使用のための提案をしていきます。

山本

 医薬品を供給する責任は、薬そのものを渡すと同時に「それは何の薬であるか」という情報を伝えることも含まれています。「ドラッグにインフォメーションが付くとメディシンに変わる」。FIPの会長をしていた私の友人の至言です。そして、患者さんに対してドラッグをメディシンにするのは薬剤師です。
 製薬企業から提供される情報は重要で、信頼できるものです。一方で、企業からの情報と非営利情報のバランスをどこで取るかという問題もあります。その判断がきちんとできる薬剤師こそが、患者さんから信頼を得られる薬剤師ではないでしょうか。

薬剤師にできてインターネットにできないこと

-日本薬剤師会と協議会は、児童・生徒へのくすり教育に関して古くから協働してきました。例えば2006年には、厚生労働省の委託事業として日本薬剤師会に医薬品適正使用啓発推進事業検討会が設立され、協議会も協力して「くすりの正しい使い方」のスライドを取りまとめました。2012年には、製薬3団体で学習指導要領に則った高校用DVDを制作し、日本薬剤師会・学校薬剤師部会と共同で「DVD活用の手引き」を作成、DVDと共に学校薬剤師の皆様方に配布し活用していただいています。こうした若年層への教育についてはどのようにお考えになりますか。

山本

 学校薬剤師を通じて学校の中で教育することが、一番オーソドックスなアプローチでしょう。保健体育の先生が指導の中心で、せっかく設置されている学校薬剤師があまり活用されていないのは残念です。例えば学校医がいながら医科のやるべき仕事を保健の先生が説明したら、より深い知識を得る機会が失われてしまうかもしれません。
 また、子どもがお茶やコーラで薬をのむのは、親がそうしているからです。子どもの薬物乱用の実態からみても家庭教育は重要な問題です。中学校、高等学校にくすり教育が入ったことは高く評価していますが、もっと基礎的なところとして、小学校中学年あたりから、薬物乱用防止教育以前に薬の本質や使い方などを教える必要があります。

黒川

 親御さんや一般の方に関して言えば、Googleに尋ねれば答えは山ほど出てきますから、特定の疾病に対する薬の情報については、一般の方でもかなり得ることができます。ただ、医師や薬剤師は教育と自己研鑽の結果、例えば「交感神経興奮作用がある」と書いてあれば、瞳孔が開き、血圧が上がるということが、立ちどころに、しかもシステマティックに浮かび上がってくる。その上で、その患者さんの理解力などを勘案しながら、総合的に優先順位を付けて話をされています。インターネットはそこがノーコントロールで「これさえのめば万事解決」という理解をされてしまう。薬の専門家が患者さんに適切なアドバイスができる環境があるかどうか。これは精神論だけではだめで、地域包括医療の中での位置付けをきちんと行わなければなりません。
 薬剤師の6年制教育も、培った知識を活かし患者さんが何に困っているか読み解き、結果的にその患者さんに最善の利益をもたらすためにあります。その周辺で私たちは各種の教材や「くすりのしおり®」などを通して、広く皆さんに知っていただくお手伝いができればと思っています。

「eお薬手帳」と「くすりのしおり®」の連携

-協議会がホームページで公開している、医療用医薬品の「くすりのしおり®」についてどうお考えですか? また、日本薬剤師会で導入を進めている「eお薬手帳」には、どういう機能を持たせ、どのようなことを実現していきたいとお考えですか。

山本

kanshajo
「eお薬手帳」イメージ

 「くすりのしおり®」は大変良いですね。情報が1枚の中にコンパクトにまとめられているので理解しやすいです。文章も中高生でも理解できる平易な内容です。副作用も敢えてきちんと記載されており、製薬企業の信頼できる情報をベースに協議会がまとめたことで、患者さんがその薬に対する認識を持つうえで、極めて効果的な資材になっています。薬剤師もこの内容を患者さんの状況やリテラシーに合わせ、簡単な言葉でうまく説明することが大切ですね。
 また「eお薬手帳」ですが、そもそも紙の「お薬手帳」が導入されたのはもう10年以上前になります。調剤した結果を時系列的に知るためのものですから、バインダーではなく、手帳やノートのようなものがいいという発想で当時はスタートしました。
 今ではインターネットの環境も格段によくなり、セキュリティ技術も向上しています。また、スマートフォンの所有率も高まっています。そこで薬剤師会で進めたのは、患者さんが自分の情報として認識できて、かつどこでも読めるスタイルのものの開発です。具体的には、大阪府薬剤師会が取り組んできた電子お薬手帳と連携・相互に利用、閲覧可能な「日薬eお薬手帳」を昨年7月にリリースしました。また、事業者を超えたお薬手帳情報の相互閲覧の仕組みについても、整備を進めています。個人の医療情報ですからセキュリティの問題もありますが、2025年までには、国が推進するICT構想の実現を目指しています。
 一方で、薬剤師が「eお薬手帳」をはじめとするツールを活用し、対話機能をきちんと担保していくことができるどうかがこれからの大きな課題となります。「eお薬手帳」と「くすりのしおり®」が紐付けされれば、入力された医薬品のコードに対応する「しおり」を見ることができるようになります。しかしこの「くすりのしおり®」にはあなたにとって役立つこういうことが書いてあるので理解してください、という働きかけは、それぞれの患者さんの状況に応じて対面でせざるをえないでしょう。正しく理解していただく努力は続けていかねばなりません。

黒川

 いくら情報デバイスが進歩しても、最後は患者さんと薬剤師の先生とのフェイス・トゥ・フェイスのお互いの信頼関係の中で、わかりやすくリテラシーの差を埋めていただく。そうすることで、実際の患者さんの行動が変わっていくのだと思います。

薬剤師の多言語対応は必須に

-英語版「くすりのしおり®」が5,000種類に充実していますが、黒川理事長のお考えをお聞かせください。

黒川

 今や年約2,000万人の外国人が日本を訪れています。薬の需要は待ったなしですから、国際的な言語である英語版「くすりのしおり®」を利用できるようにするべく、翻訳・作成を精力的に進めているところです。
  ポイントになるのは、ある程度の悉皆(しっかい)性、つまり「ここには大体の薬の情報がある」という安心感です。160社以上が加入している「くすりのしおりクラブ」などを通じて、英語版の取り組みを充実させていきます。

山本

 薬剤師の業務にも多言語化対応は必須になるでしょう。少なくとも英語で対応できる態勢は必要です。英語で簡単なやり取りができる資料、例えば指で指すチャートで症状が把握できれば、外国人の患者さんも現場の薬剤師も大変安心できる。このようなデバイスの充実も求められます。OTC薬も含めて、薬剤師は言葉がわからなくても「これはだめ」「これはいい」という判断をしなくてはならない。ここは誰にも渡せない、薬剤師の聖域だからです。
 2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されるわけですが、何しろオリンピックですから、期間中、薬剤師業務も一歩間違えば国の威信が地に落ちるほどの不祥事になりかねません。組織委員会の医療スタッフの中には医師会、歯科医師会、薬剤師会も加わっていますので、これから議論を深めていきたいですね。

-日本薬剤師会として、法人格を取得した協議会に求めることはどのようなことでしょうか。

山本

 協議会が設立されて27年。本来、薬剤師が担うべき医薬品の適正使用という基本的な役割に率先して取り組んでいただき、協議会が少しずつ規模を拡大されてきたことを大変喜ばしく思っています。これまでの仕組みを活かしながら、さらに公益性の高い第三者として、専門家による専門領域の情報を提供していく。それは国民にとって極めて良いことですし、望ましい方向と言えます。

黒川

 ありがとうございます。一般社団法人という「立場」は、社会に対する約束、契約です。130年の歴史ある薬剤師会には及びませんが、内容、外観ともにしっかりとしたものにして仕事を充実させていきたいと思っています。

「かかりつけ」を選ぶのは誰か

-最後に、読者の皆様へのメッセージをお願いします。

山本

 2016年度診療報酬改定で、かかりつけ薬剤師指導料、かかりつけ薬剤師包括管理料が設定されました、これは日本薬剤師会として歓迎すべきことです。一方で、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師を決めるのは誰か。16万人強の薬局薬剤師全員がかかりつけ薬剤師になれる資格はありますが、実際に選ぶのは患者さんです。患者さんから“任せたよ”と言われるよう、薬剤師としてのサービスがきめ細かくできる薬剤師を目指していくのが今回の改定の狙いと捉えています。
 薬剤師会は公益性の高い職能団体と言われるのですが、私はむしろプロフェッション(専門職)の団体だと思っています。薬剤師は、薬剤師法第一条で「国民の健康な生活を確保する」と社会に宣言している。声高に言った以上、専門家としてやるべきことはきちんとやる。その結果、場合によっては、消費者にとっては少し窮屈に思われるかもしれない。それが医薬品を安全に使ううえで最も重要なことだと薬剤師は考えていますので、どうかご理解いただければと思います。

黒川

 協議会も専門性を発揮し、さまざまなお手伝い、さまざまな提案を行っていくというコミットメントをしています。健康寿命の延伸のために一歩でも百歩でも先へ進めるように頑張ってまいります。