トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.14 大正製薬株式会社 取締役会長 上原 明 氏

RAD-AR News Vol.26-No.3(2016.2)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。
第14回は、大正製薬の上原会長との対談です。医療用医薬品、一般用医薬品から機能性食品、健康食品まで、さまざまな製品で生活者の健康と美に貢献している同社グループは、くすりの適正使用においても業界をリードする数々の斬新な取り組みを進めています。

 

「自分の健康は自分のために自分で守る」、
それがセルフメディケーションの真髄です。

生活者の健康と美に貢献する

-まず、黒川理事長から大正製薬に対する印象をお聞かせください。

黒川

 私が子どものころ、近所に大変やさしい薬剤師の先生がおられて、いろいろなことを教えてくださったことが、私が薬の世界を志すきっかけでした。その先生に教えられた薬の一つに御社の「強力ダマリンC」がありました。大学を卒業し厚生省(当時)監視課に入ったころは、ちょうどGMPの日本導入の検討時期に当たり、全国の製薬企業の製造工場を見学しました。大正製薬の大宮工場に伺った際には、ドリンク剤と殺虫剤の製造ラインを見学したと記憶しています。工場内の温度が一定に保たれているなど、日本のGMP合格レベルの工場はこういうものだと心強く思ったのを覚えています。
 今や上原会長は、大所高所の立場から一貫して日本全体の生活者の福祉、QOLの向上を先頭になって切り開いておられ、敬服しています。

上原

kanshajo

 ありがとうございます。黒川理事長には、厚生省(当時)審議官時代にも大変お世話になりました。2000年代は、小売店のM&A、大量購入・大量販売の時代に突入し、一般用医薬品(OTC医薬品)産業が非常に混乱していました。業界指導の依頼のため黒川審議官を訪問したところ、「業界のメリットが国民全体のメリットにどう結びつくのか、その観点がなければ 厚生施策を打つことはできません」と言われたことが非常に印象に残っています。以来、私も世の中の大きな流れや社会が求めていることを、生活者視点で読み解き、自分の会社のポジショニングを改めることの大切さをより意識するようになりました。

黒川

 一般用医薬品のリーディングカンパニーを率いる上原会長の意思決定が会社の明日を決めるだけでなく、日本の国民、生活者の手の届く健康のあり方を決めるわけですから、私のほうが緊張して、どうすれば行政がお役に立てるのだろうかと思った記憶があります。

-御社が大切にしている考え方について教えてください。

上原

kanshajo
大正製薬グループの製品群

 当社は「健康と美を願う生活者に納得していただける優れた医薬品・健康関連商品、情報及びサービスを、社会から支持される方法で創造・提供することにより、 社会へ貢献する」ことを経営理念における使命として掲げています。医療用医薬品やOTC医薬品のほか、機能性食品、健康食品など多角的な事業を通して、生活者の健康と美に貢献していきたいと考えています。
 会社が売上や利益を上げられるのは、生活者が企業に対して存在価値を認めてくれるからにほかなりません。常に工夫を重ね、社会から認めていただくことが大切です。
 当社のすべての活動は「紳商」(紳士の商売)、つまりジェントルマンシップにのっとったものでなければならないと考えています。購入された方はもちろん、社員、取引先、株主に満足いただくためには、自分一人の勝ち戦ではなく、国や社会にどう貢献できるか、周りの方々を考えたうえで行動していくことが重要です。その実行のために必要なのは正直、勤勉、熱心であること。これに勝る策はありません。

セルフケア・セルフメディケーションと専門家による医療

-先般施行された医薬品医療機器法の改正についてどのようにお考えですか?

上原

kanshajo
健康寿命の延伸に必要なこと

 一昨年施行された医薬品医療機器法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で「国民の役割(責務)」が明記され、ますます国民の自己責任が明確になってきました。日本をはじめ先進国共通の問題として高齢化が進行しています。高齢者は健康で美しく老いていく生活を送ることを望んでいます。その希望を実現するために大切なのは、誰よりも生活者自身が「自分の健康は自分のために自分で守る」という意識を持つことです。例えば、一昨年4月から利用者自身による指先からの自己採血と検査が可能になったように、新しい検査技術や仕組みも活用し、若いうちから自分の健康状態を把握し自らコントロールしていくことがますます大切になったと思います。
 もう一つの観点として、1990年代半ばから始まったインターネットの勃興による情報とサービスのグローバル化があります。これは企業の経営に決定的な影響を与えると同時に、生活者に地理的制限を越えた選択権を与えることになりました。つまり、セルフケア・セルフメディケーション分野においても、生活者自らの意志と責任において、最新・最善の情報に接し、必要なサービスを受けることができるようになったのです。
 そのような状況で、私たちが人生街道を健康に進んでいくためにはどうすればいいか。街道を走っていく自転車にたとえるなら、前輪が自らの意志に基づくセルフケアとOTC医薬品によるセルフメディケーションであり、後輪が新薬とジェネリックを使い分けて治療にあたる専門医による医療になると思います。いずれも大切なものですが、全体の方向を決める前輪がしっかりとしたものでなければ、正しい道を進んでいくことはできません。
 健康な人生を送るうえで重要な役割を果たすのはご家庭にいらっしゃる奥様方だと考えています。奥様方は言わばファミリーナースとして自分の健康のみならず、夫の健康、子どもの健康、更には親の健康を一番気にしている存在です。まずその方々が、健康を守るための正しい情報を積極的に調べ、身につけていくことが大切だと思います。

黒川

 最終的な行動を選択する権利が生活者、消費者の手にあるというのはおっしゃるとおりですね。生活者の最適な意思決定のために、信頼できる情報を創り、届け、いかに行動変容へ結びつけられるかが、医療や製薬に携わる者にとって大きな課題となっています。製薬会社や協議会の果たすべき役割はいよいよ重くなってきたと言えます。
 その際に必要なのは、会長がおっしゃったように、自らの財産である健康をどうやって守り育てていくかという視点、セルフメディケーションの視点です。先ほどの自己採血などの検査は、乗り物でいえばコンパスやスピードメーターといった計器のようなもので、自分の居場所や状態を自分で理解するのに欠かせません。こういった動きはぜひ伸ばしていかなければならないと思います。

上原

kanshajo

 私が子どものころは、検査で測るのはせいぜい体温と脈拍くらいでした。今では、血糖値、ヘモグロビンA1C、コレステロール、血圧などがすぐに分かります。時代の進歩と同時に、生活者自身が自分の健康状態を知る機会が広がっています。
 一方で、診断や治療において専門家のアドバイスが不可欠であることはもちろん言うまでもありません。いま求められているのは、薬剤師の専門性を活かした受診勧奨のような制度だと思います。例えば、医学会、医師会、薬学会、薬剤師会などが集まり、生活習慣病の診断基準をつくる。生活者の自己検査による数値がある値を上回ったら薬局・薬店から受診を促される。あるいはその前段階でセルフメディケーションの必要性などを指導する。生活者を主体にして考え医療関係者が早期発見と早期治療を分担していくことで、生活者にも専門医療の従事者にも良い結果がもたらされ、医療財政も改善していくと思います。

生活者の興味・関心に合わせた情報提供を

-くすり教育の必要性についてはいかがでしょうか。

上原

kanshajo

 2002年に、セルフメディケーション推進協議会を立ち上げました。当時私が考えていたのは、「生活者が必要とするものに対応する」のが基本ということです。要するに生活者の関心事、興味のあることから入っていかなければ、生活者に本当の意味で聞いてもらえません。栄養や体の発育、ライフステージの場面に合わせて「薬」を織り込んでいく工夫が必要だと思います。その意味で、保健体育の授業の中でも、中学生・高校生のリアルの生活に紐づいた形で薬について教えていくことが大切です。

黒川

 確かに必要としないことを無理に押しつけても、なかなか行動変容には結びつきません。協議会の出前研修は、教育の第一線からの要望に応えて実施するもので、現場の先生方もくすり教育の必要性を強く感じておられます。また、協議会では「くすりの知識 10カ条」を発表しています。実は、こうした適正使用に関する標語はあるようでないのですね。メディアにも取り上げていただき、これまで70件ほど記事として紹介されています。

-大正製薬でも充実した啓発資料を作成しておられますね。

上原

kanshajo
啓発雑誌『セルフドクター』
kanshajo
動画による患者さんへの感染対策の啓発

 1997年から『セルフドクター』という啓発雑誌を年4回、発行しています。かぜや水虫、花粉症など、季節に応じた疾患の知識や医薬品の情報を掲載し、現在は 約30万部を全国の薬局・薬店を通じて配布しています。また、2000年からはセルフドクターネットも開設して、生活者の疑問を専門医の先生に答えていただくというコンテンツの充実も行っています。
  医師・薬剤師の先生方からの関心も高く、「うちの待合室に置きたい」「看護師に読ませたいから届けてもらえないか」といった問い合わせがありましたので、大正富山医薬品のMRから「ドクターズ・アイ」という、より専門的な情報を提供する形にした冊子を作成して配布するようにしました。また、大正富山医薬品からは患者さん向けに、待合室などで上映できる感染対策動画(手洗い、咳エチケット、ノロウイルス対策など)や患者さんへの説明書などを提供しています。実際、ある地域でノロウイルスが集団感染した際には、その地域の幼稚園や小学校などに動画DVDが配付され、感染対策の啓発に活用されました。今年度からは糖尿病患者さんの療養指導をサポートするツール(日本糖尿病協会制作)の提供も開始しており、幅広い視野で健康寿命の延伸に貢献できることを目指しています。

黒川

 勤勉に、正直に、繰り返し、しかも急がずたゆまず積み重ねてきた結果、これだけ内容が充実した、医療第一線の先生も一目置くものができたのですね。どこの企業でもできることではないと思います。

鷲のマークへの信頼を守る

-そのほかにもさまざまな取り組みをされていらっしゃいます。

上原

 例えば、ダイレクトOTC薬の「リアップ®」シリーズは、使用上の注意などをまとめた薬の添付文書を、見やすく保存しやすい冊子形式で提供しています。販売店用や医療関係者用の資料はもちろん、使用して良い方とそうでない方を見分けるためのチェックシートなども用意しています。

黒川

 一貫して使用者、消費者、生活者の目線で必要とされるものを創り、届けていますね。単に「物」だけでなく「情報」、そして「安心感」「信頼感」まで届けていらっしゃいます。

上原

kanshajo
わかりやすいようにカタカナ印字をしたルセフィ®錠

 コーポレートブランドに対する信頼、鷲のマークに対する信頼を壊してはいけないと思っています。
  わかりやすさの工夫としてはこのほか、2007年から医療用医薬品の錠剤にカタカナで製品名を印字しています。一昨年5月に発売した2型糖尿病治療薬の「ルセフィ®錠」にも印字されています。医師や薬剤師などの専門家だけがわかればいいという考え方ではなく、患者さんに自分が何の薬をのんでいるのかを意識していただきたいと考えました。

黒川

 生活者のために、かけ声だけではなく、できることは何でも実践されていますね。それから御社では、製品のインバウンド対応も進めているそうですね。

上原


英文も表記したパブロンSゴールドW®添付文書

 来日される外国人の方々のために、かぜ薬の「パブロンSゴールドW®」などニーズの高い製品のパッケージに英文表記を施しています。また、添付文書にも英文と日本語の、2カ国語表記版を作成しています。更には、店頭用に英語版に限らず中国語の説明文書も用意している製品もあります。

黒川

 協議会でも医療用医薬品の説明書「くすりのしおり®」英語版の作成を推進しており、ホームページへの掲載品目としては5,000種類を超えました。その作成者である製薬会社には、作成基準により表記の統一をお願いしています。例えば「発熱」は、医学用語では「pyrexia」とやや硬い表現です。しかし一般的には「fever」で、パブロン®の説明でもそうなっています。このように、生活者の目線に立ち、より身近な表現を推奨しています。今後、日本OTC医薬品協会、日本一般用医薬品連合会などと連携し、医療用医薬品と一般用医薬品の双方にまたがって統一された、わかりやすい表現での医薬品の説明書を一緒に創りあげていきたいと思っていますので、何とぞご協力をお願いします。

適正使用のヒントは「ごみの分別」に在り

-最後に、協議会への期待と読者へのメッセージをお願いいたします。

上原

 生活者それぞれの生活シーンに合わせた薬の用量やのみ方について、製薬企業はそれぞれの得意な領域でノウハウを開発しています。それを懐に入れてしまうのではなく、広く情報発信していくことを各メーカーに訴えていくのが協議会に期待された役割だと思います。薬を正しく理解し、正しく使ってもらうことは、薬全体に対する信頼にもつながります。
 また、生活者の行動変容を起こすためのヒントとして、ごみの分別が参考になると思います。国民一人ひとりが、ごみを仕分けする習慣を身につけたことで、回収や処理などの流れが非常にスムーズになりました。この成功の根底には、生活者一人ひとりに、「自分がわずかなことでも社会のために貢献できている」という自己肯定感、満足感があると思います。セルフメディケーションもきっとそうではないでしょうか。自分の健康を守ることが超高齢化社会を維持し、誰もが美しく老いていくことができるようになることにつながっている。そうした意識が浸透すれば、自ら動き出す人がきっと増えてくると思います。
 J. F. ケネディは、大統領就任演説で「米国民よ、国家があなた方に何をしてくれるかよりも、あなた方一人ひとりが国家にどんな貢献をできるかを考えるべきだ」と述べました。いまの時代、こうした考え方が日本社会にも広く根付くことが重要ではないかと強く感じています。

黒川

 協議会の将来の方針について大きなビジョンをいただいた思いです。本当にありがとうございました。