トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.13 協和発酵キリン株式会社 代表取締役社長 花井 陳雄 氏

RAD-AR News Vol.26-No.2(2015.9)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。
第13回は、発酵技術で培われたバイオテクノロジーを基盤とする協和発酵キリンの花井社長との対談です。バイオ医薬品の適正使用の領域で同社が進めている革新的な取り組みや、患者さんへの貢献への思いについてお話を伺いました。

 

バイオ医薬品で新しい価値の創造を
 ~コンパニオン診断薬を用いた適正使用~

「私たちの志」に込めた思い

-最初に黒川理事長から、協和発酵キリンについての印象をお聞かせください。

黒川

 協和発酵工業とキリンが別々に活躍していたころの印象からお話しますと、協和発酵工業は抗がん剤や抗てんかん剤などの精神神経用剤といった領域で、新しい治療法を提案してきた存在感のある企業ですね。キリンの印象は一番はお酒ですが(笑)、薬に関して言えば、90年代初めのエリスロポエチンとG-CSFという二つの製剤で、バイオ医薬品という次の時代の到来を教えてくれた企業でした。

花井

kanshajo

 ありがとうございます。協和発酵キリンは1907年創業のキリンビールグループの医薬品事業会社であるキリンファーマと、1949年創立の協和発酵工業が融合して誕生しました。両社には「発酵」という共通のキーワードがあり、インターフェロンやG-CSF製剤、エリスロポエチン製剤といった画期的なバイオ医薬品をこれまで世に出してきました。よく似たベースを持つ会社同士が一緒になり、日本発のバイオ医薬品、抗体医薬を中心とした創薬を行っていきたい。その純粋な気持ちが一つとなり、2008年10月に協和発酵キリンが誕生しました。
 新会社発足後は、いままで有効な治療法がなかった成人T細胞白血病リンパ腫に一定の効果をもたらす抗CCR4抗体薬の「ポテリジオ®」を2012年に上市。続く2013年にはパーキンソン病の患者さんに役立つべく、世界初のアデノシンA2A受容体拮抗薬「ノウリアスト®」の製造販売承認を取得し上市しました。2014年末には、G-CSF製剤の持続型製剤も出しています。また、ポテリジオ®、ノウリアスト®は、欧米でも第Ⅲ相試験を実施しており、われわれが目指す「グローバル・スペシャリティファーマ」の目標が、いま実現しつつあります。

黒川

 新会社設立時に、社員の信条として「私たちの志」を発表されていますが、素晴らしいですね。新しい治療法を患者さんや医療関係者にお届けしたいという思いを、わかりやすいかたちで世の中に発信することは一見簡単なようで、その裏づけとなる自信、実績と将来に向けた覚悟がなければなかなかできるものではありません。

花井

kanshajo

 「私たちの志」は、私を含めた全社員が小冊子としていつも手元に置いています。研究・開発・製造・営業部門などの社員1,000人以上が参加して、どんな言葉にしようかと議論した結果、たくさんの言葉が寄せられ長文になってしまいましたが、社員が自らの行動を振り返る際に常にひも解く、たいへん良いものができたと自負しています。

患者さん目線に立った「くすりの知識 10ヵ条」

-昨年秋に改正薬事法(医薬品医療機器法)が施行され、くすりの適正使用を国民の責務とすることが初めて盛り込まれました。花井社長は今回の改正をどのように見ていますか。

花井

 国民の立場、患者さんの立場が明記されたのは非常に画期的なことで、医薬品をめぐる大きな変革が生まれようとしていると思います。ただし、急に国民の立場、患者さんの立場と言われても、多くの方は多分戸惑ってしまうでしょう。ですから、患者さんとコミュニケーションをとる医師、薬剤師の役割はこれからより重要になるはずです。もちろん製薬会社としても、医療関係者と患者さんのコミュニケーションの中から上がってくる情報を活かし、より適切に使っていただける製剤を開発していかなければなりません。

黒川

 このような法律が新たに出てきたことは、おっしゃるように画期的である一方、法律に書かれたからといってすぐに変わるものではありません。患者さんや医療関係者の行動が変容していくのはまさにこれからです。
 国民の理解を助ける一助として、協議会では昨年、「くすりの知識 10ヵ条」を提言しました。国民の多くが体系的なくすり教育をまだ受けていない中で、患者さんにこの10ヵ条を理解いただき、日々の服薬行動や医療従事者とのコミュニケーションに反映させていく。この地道な繰り返しで、日本全体に適正使用をしっかり浸透させて いくことができればと考えています。おかげさまでマスコミからは大変評判がよく、当初の想定以上に手応えを感じています。

花井

 添付文書には薬の効果と副作用、適正使用の方法が全て書いてあります。だからといって、一般の患者さんに「添付文書を細かく読んでください」という姿勢では、適正使用の実現は難しいでしょう。「くすりの知識 10ヵ条」は、一つひとつが短く、患者さんの目線でわかりやすく書かれています。国民目線、患者さん目線というのはこういうことだと思います。

未来を担う子どもたちに

-協議会では、未来を担う子どもたちへのくすり教育の支援も行っています。

花井

kanshajo

 大人になって、急にくすりの適正使用の重要性を説かれてもなかなか身にしみて理解はできません。やはり子どものう ちから適切な教育を行うことが大切ですね。協議会の教育者向け出前研修は、非常に意義のある取り組みだと思います。製薬会社一社ではなかなかこうした取り組みはできませんから。
 一方で、日本の子どもの理科離れを食い止めたいという思いから、当社では出前の理科教室「バイオアドベンチャー」を長年実施しています。当社の研究員が小・中学校に出向き、DNAや免疫などに好奇心を持ってもらうための実験の場を提供しています。この取り組みを契機に理科系の道に進み、当社に入社した社員もいます。

 また、東日本大震災ではキリングループ全体で「キリン絆プロジェクト」という支援活動を展開しました。その一環として日本農芸化学会への寄付を通じて理科教室を開催していただいたほか、被災地の六つの高校で、生徒さんの研究指導や器材の支援をさせていただきました。その研究の発表会に私も参加しましたが、すばらしい発表に感激しました。
 製薬企業が理科教育支援を行い、協議会が薬の使用に関する出前研修を担う。それぞれが得意とするところで役割を分担していくことが大切だと思います。

黒川

 若いころの出会いというのは非常にインパクトがありますね。私自身も小学生のときに、近所にいた薬剤師の先生にいろいろなことを教わったことが、今の道に進むきっかけになりました。理科教室は、医薬品開発はもちろん、工学、生物、原子力など理科系すべてに共通する土台を築く、すばらしい取り組みだと思います。
 協議会の出前研修では、製薬企業の経験の深い方々に講師となっていただいています。受講した先生方からは大変好評をいただき、今年はおかげさまで大幅に受講者数が増えています。

-患者さん向けの「くすりのしおり®」では、御社は日英版ともに登録率100%を 達成しています。「くすりのしおり®」に対する考え方をお聞かせください。

花井

 契機になったのは当社のホームページリニューアル時にWeb訪問者にアンケートを取ったところ、多数の方が医薬品の情報を見に来ていたことがわかったことです。ほとんどの製薬企業は、医療関係者向けのWebサイトで添付文書が閲覧できるようになっていますが、実は患者さんこそが薬の情報が欲しくてアクセスしています。患者さんにも薬の情報を提供するにはどうしたらいいかを考えた結果、当社のホームページから「くすりのしおり®」にリンクを貼れば一番効率的だと考えました。一般の患者さん向けのページからも「くすりのしおり®」の閲覧ができるようにしているのはそういう理由です。

黒川

 日本語版、英語版ともに100%であることに、心より感謝を申し上げます。「くすりのしおり®」は各社の専門家の皆様に、患者さんの理解力や病気の状況などを踏まえて、正しい情報を、適正な分量でまとめていただいています。ぜひ、多くの患者さんに役立てていただきたいと思います。

コンパニオン診断薬を用いた新たな適正使用の形

-御社の製品の適正使用の取り組みについてはいかがでしょうか。

花井

kanshajo

 当社では様々な製品群を出していますが、やはりバイオ医薬品の適正使用についてご紹介したいと思います。
 抗体医薬品や抗がん剤は、効果が期待できる適切な患者さんに投与すべき薬剤であり、マッチしない患者さんに投与しても副作用などで逆に負担をかけてしまい ます。
 当社のポテリジオ®が画期的なのは、コンパニオン診断薬「ポテリジオ®テスト」を一緒に開発し、同時に承認された点です。当時、コンパニオン診断薬の開発は、まだ 取り組んでいる会社が少なかったため、PMDAや厚労省と細かく相談し、診断薬の臨床試験のあり方などについてご指導をいただくなど、行政と一緒に進めたのが大きなポイントだと思います。

 このことによって、実際にポテリジオ®が医療現場で処方される際に、ポテリジオ®テストによる診断が事前に実施されるようになり、効果が期待できる患者さんだけに 薬を使用できるようになりました。われわれとしてもバイオ医薬品の適正使用について、新しい価値を創造できたのではないかと考えています。

黒川

 コンパニオン診断薬を使った治療は、今後拡大していくことは間違いないと思います。ぴったり合う人を選んで、ピンポイントで使える方法を確立した意義は非常に大きいと言えます。画期的な新薬と診断薬により、患者さんの願う人生を送ることができるまでに改善できる。まさに患者さんにとっての福音です。

花井

 ありがとうございます。それから、腎性貧血の治療薬であるエリスロポエチン製剤「ネスプ®」を紹介しましょう。腎性貧血と一言で言っても患者さんの状況、ステージは様々です。そのため、5~180μgの9種類の容量のプラシリンジを用意しています。特に最近出した5μgプラシリンジの容量は、今まで以上にきめ細かい調節ができると、医療現場の先生方から支持をいただいています。製薬会社としては、容量を何種類も出すと全部承認を取らなければいけないので正直大変ですが、われわれの立場でできる貢献の一つの形だと思います。

黒川

 薬は、患者さんの多様性に応じて使い分けるといっても、容量は2~3種類というのが一般的でしょう。本当にきめ細かく対応されていることに頭が下がります。よく拝見すると容量によってシリンジの色がそれぞれ違うのですね。

花井

 きちんと識別できるように専門の先生にご指導いただきました。

黒川

 医療現場で「間違えるな」といくら言っても医療事故は防げません。間違いが起きにくいような工夫は、忙しい医療の第一線で高く評価されると思います。

バイオ医薬品の適正使用の推進を

-今後、協議会が加盟企業を増やし、広く社会に貢献していくためにどのように取り組んでいきますか

黒川

 超高齢化社会に突入し、国民の健康維持が切実な社会の課題となる中で、医療を支える薬が持てる力量を発揮するために、協議会としてできることは何でもしなければなりません。「くすりのしおり®」や出前研修といった、われわれが得意として社会からも要望されている領域をさらに伸ばしていきます。また、新薬のみならずジェネリック医薬品や一般用医薬品の領域にも一層拡げていく必要があります。最近では、加盟社も順調に増えており、協議会への期待と受け止め、普遍的な活動を展開していければと願う次第です。

花井

 少子高齢化が進み日本の医療が変わる中で、ベストな医療を提供するプレーヤーとしての製薬企業の役割も変わってくるでしょう。われわれも協議会の一員として、くすりの適正使用のあり方について勉強させていただきたいと考えています。特にわれわれが取り組むバイオ医薬品の適正使用については、一社では限界があるので、是非旗振り役としての活動をお願いしたいと思います。

黒川

 抗体医薬品は標準治療を変える新しい提案ですから、患者さんも医療関係者もわからないことも多々あるはずです。 基本的なところを理解し、患者さんや家族も一緒に治療に参画し、医療従事者とのやりとりや製薬企業へのフィードバックを通じて、さらに使いやすいものにしていくという循環をつくっていくことが重要です。協議会として準備会議を立上げ、今後検討していきます。

-最後にお二人から一言ずつ頂戴できればと思います。

花井

 私自身、薬剤師の資格を持っていますので、『RAD-AR News』のどのコーナーも興味深く読んでいます。皆様にも各製薬企業の取り組みや、適正使用についての様々な内容について、ぜひ詳しく読み込んでいただきたいと思います。生涯教育のツールとしてもすばらしいものだと思いますので、薬剤師の皆様にもぜひ活用していただきたいですね。

黒川

 ありがとうございます。医療業界・製薬業界は、かつては治療が困難だった症状や病気が、いまや治療可能になり、多くの患者さんが元気な姿で職場や学校へ戻れるようになっているという明るいメッセージを出し続けていかなければなりません。そして、患者さんももう少し薬について勉強していただき、医療関係者や製薬会社と協力して病気に立ち向かっていく、あるいは、次に病気になるかもしれない方のために役立っていこうと思いを持っていただければと思います。

 お話を通して、日本の医薬品開発と生産の最先端の姿にふれ、世界の中で冠たる位置を占めている御社の空気と文化を深呼吸させていただいた気持ちがします。協和発酵キリンさんが「私たちの志」でうたっている思いを実現できるよう、われわれもお側で仕事をさせていただきます。