トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.12 Meiji Seika ファルマ株式会社 代表取締役社長 小林 大吉郎氏

RAD-AR News Vol.26-No.1(2015.5)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。
第12回は、Meiji Seika ファルマ(株)の小林社長との対談です。赤ちゃんのミルクから日々の食事、流動食まで、人生のあらゆる場面で関わりのある製品を幅広く手がけ2016年に創立100周年を迎える明治グループの中心的存在であるMeiji Seika ファルマのくすりの適正使用について語っていただきました。

 

適正使用実現のために新しい技術・手法を駆使し医療の場に提供

感染症、中枢神経領域、ジェネリック医薬品事業を3本柱に

-まず、黒川理事長からMeiji Seika ファルマに対する印象をお聞かせください。

黒川

 小さいころから、川崎駅を通る際に明治製菓さんの工場がよく見え、カナマイシンの大きなネオンサインが輝いていました。当時飛躍的に成長を遂げる日本の活力があの建物に象徴されているようで頼もしく思ったことを覚えています。

 その後に勤めた厚生省での最初の仕事がGMPの日本への導入でした。業務の一環で、川崎工場も見学させていただきました。アミノグリコシド系の抗生物質が中心で、確か凍結乾燥品もあったと思います。近くの施設から、チョコレートの甘い匂いが漂ってきたのもよく覚えています。

小林

kanshajo

 Meiji Seika ファルマの前身である明治製菓は、チョコレートなどの食品と併せて医薬品事業を手がけてきました。おかげ様で2016年に創立100周年を迎えます。

 医薬品事業に関しては、1946年のペニシリンの製造開始から、日本における抗菌薬の開発にずっとかかわっています。1958年に発売されたカナマイシンは、わが国で初めて世界に通用する抗菌薬として開発され、現在でもWHOで主な抗結核薬として採用され、広く世界中で使用されています。

  現在の抗菌薬のラインアップは、ペニシリン、ストレプトマイシンという基礎的必須医薬品から、世界初の経口カルバペネム系抗菌薬であるオラペネム®まで、22成分60品目に及びます。

-中枢神経領域にも注力されています。

小林

kanshajo

 感染症と並ぶ、当社のスペシャリティの部分です。貴協議会創設の年でもある1989年、当社として初めて抗不安薬を発売しました。それからほぼ10年ごとに新薬を創出し1999年には日本初のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)であるフルボキサミン、2009年にはNaSSAという新しい薬理作用を持つ抗うつ薬ミルタザピンを発売しています。

 抗菌薬、中枢神経系薬の2つの柱に加え、新薬メーカーとして、約10年前からジェネリック医薬品事業にも力を入れています。少子高齢化が急速に進展する中で、我が国の国民皆保険を守るためには、どうしても医療費、特に薬剤費の適正化が必要となってきます。ベースになるのは「高品質のジェネリック薬の安定供給」だという思いから始めた事業です。

  今後、当社はスペシャリティ&ジェネリック・ファルマとして、より多くの地域で、より多くの患者さんの治療に貢献していきたいと考えています。

黒川

 Meiji Seika ファルマが世に出している薬は極めて広範ですね。患者さん、医療、社会に広く貢献していく姿勢が表れています。

 協議会に対しては、長年物心両面のサポートを賜り、貴重な人材も派遣していただきました。その方々が積み重ねてこられたことの上に今日があります。また北里元会長にも大変鍛えていただきました。今日、社長とお話しさせていただくことをとても光栄に感じています。

自ら「情報を知りにいく」姿勢を当たり前のものに

-さて、このたびの医薬品医療機器法を、製薬企業トップの立場としてどのように受け止めていらっしゃいますか。

小林

 新たに医薬品医療機器法に掲げられた国民の薬に対する知識と理解を深めるという努力義務は、大変重要なポイントだと思います。薬には必ず作用のほかに副作用があることをまず知り、そしてリスクを自ら最小化するために、服薬する個人が責任を持って「情報を知りにいく」という姿勢を当たり前のものにしていくことがその第一歩だと思います。その意味でも今回の医薬品医療機器法の意義は大きく、製薬会社としても「情報を知りにいく」患者さんに対応できる情報提供の在り方を一層充実させることが求められてくると思います。

 また、明治グループ全体では、薬品だけでなく、赤ちゃんのミルクから日々の食事、サプリメント、そして流動食まで、まさに赤ちゃんからお年寄りまでに必要な製品を幅広く手がけています。そのため、グループ全体で、それぞれの商品・製品が果たす役割、機能の違いを広く皆さんにご理解いただけるよう取り組んでいます。

 私は仕事柄よく病院を訪問しますが、先生方から、健康食品と薬を混同し、健康食品を処方してほしいと依頼される患者さんに困っているというお話をよく耳にします。今後は、国民の健康ニーズの高まりに応じて拡大していく様々なサプリメントの使用も考慮した「くすりの適正使用」の情報提供が求められてくるでしょう。これまでは医療用医薬品同士の相互作用を考えていればよかったのですが、今や健康食品を大量に摂っている上に新規の薬理作用を持つ治療薬が加わることから、患者さんの服薬状況は複雑であり、よりリスクは高まっていると認識しています。しかも患者さんご自身の健康食品の使用状況まで医師・薬剤師に伝える方は多くありません。医師・薬剤師にも自ずと対応には限界がありますから、国民の側も自ら薬について「知りに行く」姿勢を持つ必要があると思います。

黒川

 薬について自分でも理解して、納得したうえで治療に取り組んでいく姿勢は、本来私たち一人ひとりに備わっていなければいけないことであり、ぜひその文化を根付かせていかなければなりません。その一助になればと、協議会では昨年「くすりの知識10ヵ条」を提言しました。最近は新聞の社説にも取り上げられるなど注目が集まってきており、勇気づけられています。

「くすりのしおり®」は様々なデジタルデバイスの活用を

-協議会では、学校教育をサポートする取り組みも行っています。

小林

kanshajo

 まず、子どもたちの薬に関しての知識の実態を重く受け止めなければならないと思います。中学、高校においては、副作用や相互作用、また服薬遵守の大切さを繰り返し教えていく必要があるのではないかと思います。交通安全の指導がそうであるように、ベネフィットよりもリスクを最小化するというベクトルを子どもたちの教育のベースにすべきでしょう。

黒川

 学習指導要領に盛り込まれて、子どもたちが一生使える知識としてしっかり勉強していくのは、とても大切なことです。医療資源が今後ますます重要なものとなる中で、健康を一人ひとりの大切な財産として守り育てていくことが基本になっていきます。薬など健康にかかわる基本的な知識をベースに、一人ひとりが自分の人生をデザインしていくことが望ましいと思います。これは、新薬やジェネリック、一般用も含めた全ての薬に言えることです。

-協議会では、業界の横断的な取り組みとして「くすりのしおり®」も制作しています。

黒川

 各社の情報担当の皆さんが、本当に知恵を絞ってA4判1枚に必要な情報を圧縮してくださっています。おかげ様で、ようやく社会の中でも認知度が高まってきました。世の中の全ての医療用医薬品が、この1枚の資料でカバーできるようになればと考えています。

小林

 薬剤師と患者さんのコミュニケーションを高められるツールですね。今後の課題としてお願いしたいのは、コミュニケーションツールとして、様々なデジタルデバイスを活用してよりわかりやすくしていくことを目指していただければと思います。音声読み上げなども含め、どこでも必要なときに情報に触れられるような土俵づくりを期待しています。

iPadを早期導入した理由

-Meiji Seika ファルマが独自に取り組んでいる適正使用の取り組みについてご紹介いただけますか。

小林

kanshajo

 この100年間、食品・医薬品の領域で幅広く事業をさせていただいてきた私たちにとって、我が国の健康に寄与し続けることは理念であり責任です。薬の安全性や適正使用の徹底についても、会社の文化として非常に重視してきました。

 当社が取り扱う薬は前述したとおり、ジェネリック薬も含め極めて広範です。その中で情報提供の質とスピードを確保するための取り組みとして、まず紹介したいのがiPadでの情報提供です。約2年前にiPadを約800人のMR全員に配布しました。導入した理由は、当社が取り扱う多くの薬の情報を、一覧性を持って即時的に提示するツールがiPadしかなかったからです。現在は、市販されている全医療用医薬品の情報を、公表されている添付文書から引用して組み込んでいます。

  導入に当たってこだわったのは、疾患軸・患者軸という視点です。例えばメイアクト®という感染症治療薬が必要な患者さんがいます。高齢であれば、その患者さんはたいてい血圧降下剤や糖尿病治療薬など、他の薬も服用されています。このような場合、メイアクト®と他剤の相互作用の一覧を入れておくことで、併用のリスクをその場でお伝えすることができます。患者さんの状況によっては自社品を使っていただけない場合もありますが、適正使用をしていただきたいという思いで続けています。

黒川

 次々に新しい機序の薬が発売される中、医療現場で必要とされる情報をただちに、それもしっかりとした裏づけを持って提供できるというのは、会社への信頼にも結びつきますね。

小林

 それから、ディアコミット®という薬があります。ドラベ症候群(乳児重症ミオクロニーてんかん)という難治の小児てんかんの唯一の治療薬です。発作を起こす小さい赤ちゃんにお母さんが量を調節しながらのませる薬ですから、服薬指導については細心の注意を払う必要があります。そのため、患者さん用と医師用のDVDを作成しました。もちろん、ホームページからも資料をダウンロードできます。この薬がなくてはならない患者さんがいる中で、剤形工夫を飛び越してとにかく早く承認を取り、治療薬として提供することを優先しました。製薬会社として冥利につきる取り組みでした。

新薬と同じ取り組みで品質を守る

-ジェネリック製品の適正使用の取り組みはいかがでしょうか。

小林

 当社の取り組みをまとめた「こだわりのジェネリック」という冊子で詳しく説明していますが、当社はジェネリックについて、原薬の選定から安定供給、情報提供、エビデンスの創出まで、すべて新薬と同じ取り組みをしています。その上で、先発品で困っていることを聞き取り、先発品にはない製剤の設計やデータ収集も行っています。市販後のデータ収集、製品の製造、品質管理も、全て新薬と同じ扱いです。よく先生方に「本当にここまでやっているの?」「こんなことをやっていて、コスト面は大丈夫なの?」と言われます(笑)。

黒川

 確かにそう聞きたくなります(笑)。なぜ、ここまでされるのですか。

小林

 ジェネリックは、患者さんの不安よりも、実は医療関係者側の不安が大きいのです。安価だが原薬の品質が低いのではないか、また情報提供や製剤設計は大丈夫なのか、虚実ないまぜの情報が流れています。そのため、品質や性能に問題なく安全に使っていただけることを、まず医療現場の先生方に心の底から納得していただく必要があると考えています。

 ここまで徹底するのは、われわれがmeijiブランドを背負っていることも大きいですね。グループ製品のすべてにmeijiのブランドイメージがついているので、何か一つでも問題があると、他の製品すべての信頼が失われかねませんから。

-剤形工夫もされていますね。

小林

 これは抗うつ剤のパロキセチン「明治」という薬ですが、用量を調節できるように十字割線を入れています。この薬は非常に薬効の優れた、ベースになる抗うつ薬ですが、薬をやめるときにどうしても副作用が出てしまうため、徐々に減らしていくことが求められます。「割線があれば・・・」という医療現場での聞き取りから生まれた工夫です。分割したことによる分量のばらつきも、全部データを取っています。

 また、抗菌薬であるバンコマイシンでは最適な投与方法・投与量の提案という、耐性菌に対する取り組みをしています。バンコマイシンは、患者さんごとに血中濃度測定でピーク値とトラフ値をきちんと把握しつつ慎重に投与することが求められます。そこで、体重や年齢など患者さんの情報を入力することで、その患者さんに最適な投与条件が現場ですぐに設定できるTDMソフトを提供しています。ジェネリックであってもコントロールの必要な注射薬については、今後もこのようなTDMソフトを、順次提供していく予定です。

黒川

 適正使用の実現のために、ありとあらゆる手段を活かし、新しい技術も躊躇なく取り入れて、医療の場に提案されている。患者、国民の皆さんに対する温かい目線、そして一緒に治しませんかという熱意が本当に伝わってきます。

薬の相互作用について 情報交換を

-今後の協議会の拡大についての意気込みと、読者へのメッセージをお願いします。

黒川

 協議会では5カ年計画を立て、会員数の増加を目指して、活動を紹介し、ご理解いただけるように努めています。今後も継続して進めていく必要があり、各製薬企業・各医薬品が程度の違いはあるにせよ、適正使用の環境づくりにおいては、同じ課題に直面しています。協議会のリソースを活かし、会員企業に対してさらに貢献していかなければいけません。

小林

 今後協議会の役割はどんどん大きくなるでしょう。少子高齢化の中で、今後の日本の成長を支えるのは健康であり、医療用医薬品にあってはくすりの適正使用がそのベースの一つになります。協議会の努力に敬意を表するとともに、これからますます重くなる役割、使命に一企業として引き続き貢献できることを誇りに思います。
 先ほども触れましたが、これからの処方は多剤投与が前提となってくるでしょう。それぞれの薬の相互作用や有効性、相乗効果に関して、業界全体で情報交換を深め、一本化することで患者さんにシンプルな情報提供ができればと思います。

黒川

 会社全体に流れる温かい気持ちとまなざし、そして、それを裏づける技術と実践が、現在のMeiji Seikaファルマの業績につながっていることを改めて学ばせていただきました。1日に100万、1000万の言葉が降り注ぐ中で、くすりを適正に使っていくメッセージをどのように患者さんに届けて、服薬行動に反映してもらうか。今日伺った、一人ひとりの患者さんの事情にマッチした最適のデバイスやアプローチの工夫から、そのヒントをいただいたと思います。