トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.11 日本新薬株式会社 代表取締役社長 前川 重信氏

RAD-AR News Vol.25-No.4(2015.2)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。
第11回は、日本新薬の前川社長との対談です。京都を地盤にユニークな新薬を生み出してきた同社。くすりの適正使用についても、利用者の目線を意識した独自の取り組みを進めています。

 

薬や病気の知識を、
患者さんと同じ「共通言語」で伝えていく努力を

京都発の製薬企業として

-最初に黒川理事長から日本新薬に対する印象についてお聞かせください。

黒川

 1973年に私が厚生省に入省した当時、日本でGMPの導入が検討されていました。御社の京都工場にお伺いし、ピカピカの最新設備を見学させていただき、日本もGMPを世界レベルでやっていけるという確信を得たことを覚えています。その後、関西に出張した折、新幹線の窓から本社と看板が見えるたびにその時のことを思い出し、初心に返る思いでした。

前川

kanshajo

 私の入社前年に、京都工場でGMPに適合した生産体制が確立されました。担当取締役が社内で「ミスターGMP」と呼ばれていたのを記憶しています。
  1911年に前身の京都新薬堂が創業し、1919年に株式会社として日本新薬が設立されました。2019年には100周年を迎えます。創業者・市野瀬 潜の「日本人の飲む薬は日本人の手で創りたい」という思いから、現在の社名が付けられています。
 創業当初から純然たる製薬メーカーで、1940年にサントニン®という国産初の駆虫薬を発売しました。その量産化に成功し、広く国民の健康に貢献したということで、1944年に第1回技術院賞を受賞しています。
 その後、現在も販売している前立腺肥大症治療剤のエビプロスタット®のほか、代謝拮抗性抗悪性腫瘍治療剤のキロサイド®、抗めまい剤のセファドール®、頻尿治療剤のブラダロン®、前立腺癌治療剤のエストラサイト®など、1960年代から順次新薬を創出してきました。1961年には、粉末の香辛料を発売し、食品分野への展開も始まりました。
 最近では他社があまりやらない領域で、ユニークな薬を数多く患者さんに提供しています。肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療剤アドルシカ®、慢性疼痛の治療剤トラマール®、血液関係では骨髄異形成症候群の治療剤ビダーザ®、そして、アルコール依存症患者の断酒補助剤のレグテクト®などです。

黒川

 時代に合わせて、社会に有用な薬を次々に開発されておられますね。日本人にとって一つの知的財産、その結晶だと思います。御社以外にも京セラ、ワコールなど、京都の企業の特徴かもしれませんが、ほかとは少し違う独自のポリシーで、ユニークな製品を提案し、社会に貢献していくという凛とした姿勢が、今のお話からも伺えます。

前川

 会社の存在意識は、その事業が社会に貢献することで生まれると思います。特に薬はその最たるものです。病気で困っている患者さんやご家族の福音になるような薬をきちんと出していきたいのです。私は研究開発部門に対して「効果、安全性、患者さんのQOLの向上の3点で、既存薬と比較して少なくとも1つは秀でるものを開発するように」と言っています。それほど大きな規模の会社ではありませんが、皆さんに必要不可欠な企業だと認識していただけるよう努力しています。

適正使用は「国民の権利」

-昨秋に改正薬事法が施行され、くすりの適正使用について国民がきちんとコミットしていかなければいけない点が明記されたことについて、どのような感想をお持ちですか。

前川

 国民の立場、患者さんの立場が記されたことは画期的です。「国民の責務」というと、何かしなければならない義務と重くとらえがちですが、逆にこれは権利だと思うんですね。国民の権利が明文化されたと考えれば、それぞれがすべきことも見えてくると思います。

黒川

 従来の生産者、医療従事者からの一方的なアプローチから、国民、患者さんが一緒に舞台に上がり、取り組んでいくという新しい次元に入ってきています。
 一方で、国民の側からすると、「責務」と言われてもどうしたらいいかわからない方も少なくないと思います。日本新薬のWebサイトを拝見しましたが、実にフレンドリーですね。何の予備知識がなくても必要なことは理解できる。もちろん専門家に対してもきちんとした正確な情報を提供されています。

前川

 改正薬事法は、製薬企業にとっていい意味での緊張感を生み出したと思っています。我々としては、国民に情報を発信し、理解し実践していただくために努力しなければならないのですから。そのためには、医療従事者の先生方に提供する情報には、学術的な部分に加え、「患者さんにこんな表現で伝えては」などの表現方法まで含まれているのだと思います。

黒川

 協議会では、設立25周年記念のシンポジウムを昨年開催しました。そこで、我々が取り組んできた一つの成果として、「くすりの知識10ヵ条」を提言しました。国民、患者さんに理解し、実践していただきたいことのいわば結晶です。
 現在、この10ヵ条の普及・啓発に一生懸命努めておりますので、ぜひ御社にもご紹介、ご活用いただければと思います。

前川

 協議会が作成した、10ヵ条が記載されたクリアファイルを使っていますが、これは非常に良いですね。難しい言葉で書かれたものは、患者さんにも読んでいただけませんから、とにかくわかりやすく、理解しやすい形で作られるとよろしいのではないかと思います。

黒川

 ありがとうございます。法律改正をきっかけに、改めて薬の本当の力量をうまく発揮させるための呼びかけができればと思っています。新薬の開発は知恵や経験のある方が何人もが関わり、10年以上の時間、一生懸命努力を重ねてやっと実現します。それが患者さんに正しく使っていただけないと、注ぎ込まれたものが最後の瞬間に水の泡になってしまいますから。

前川

 我々製薬企業、医療従事者は、患者さんに通じる「共通言語」を持つべきだと思います。薬に込められた薬効、安全性などのたくさんの情報をいくら学術的に話しても伝わりません。薬の知識、病気の知識を患者さんと同じ言葉で伝えていく努力が必要です。

地元の学校教育に貢献

-くすりの適正使用の浸透を図っていくうえで、子どもたちへのくすり教育は一つのアプローチになると思いますが、前川社長はどのようにお考えになりますか?

前川

kanshajo

 素晴らしいことです。健康にかかわることを教えるのは、教育の最重要事項ではないでしょうか。「三つ子の魂百まで」と言いますが、小さいときから正しい知識をきちんと身につけることが大切です。
 その意味で、協議会のくすり教育支援は社会への貢献度が高い取り組みだと思います。くすり教育のプロとして認定された講師の知識を、子どもたちと向き合う保健体育の先生方にきちんと伝えてほしいですね。当社のスタッフも講師として活躍しているようで誇らしいです。
 当社では京都市内の小学校を対象に出前授業を独自に実施しています。光合成による酸素の生成など環境に関する実験のほか、錠剤やカプセル剤などの薬の仕組みを教えています。「病院でもらった薬を友だちにあげてもいいですか」「薬は決められた量よりたくさん飲んだらよく効くと思いますか」といった2択のクイズ形式で、子どもが興味をもって理解を深めてもらえるよう工夫しています。
 また、別の取り組みとして、京都市が廃校になった中学校を利用し作った学習施設に展示ブースを設置しました。薬の正しい知識の啓発を目的に、この施設にタッチパネル方式による3択のクイズを掲示したところ小学生に人気のコーナーになりました。やはり、知識ばかり教えるのではなく、まずは興味を持ってもらうことが大切だと思いますね。

黒川

 「先ず隗より始めよ」という言葉どおり、このような取り組みをきっちり地元で実践されておられるのは、本当に素晴らしいことだと思います。
 糖尿病とその予備軍は2000万~3000万人、45歳以上の男性の6割が高血圧という日本の状況の中で、将来を見据え、これからの日本を支える子どもたちの教育は、絶え間なく、繰り返し努力していかなければならないテーマです。

患者さん視点に立った情報提供を

-日本新薬のWebサイトは、ユーザーフレンドリーな、使う側の立場に立った情報提供をされているのですね。

前川

 当社のWebサイトも、昔は一方的な情報伝達に終始していました。そこで、4~5年前に、若い社員を中心にチェックしてもらい、全面的に更新しました。手前味噌ですが、評判も良くて、ある証券会社さんが出している企業サイトのランキングでは、内容の充実度や読みやすさなどが評価されてかなり上位につけています。

黒川

 私が感銘を受けたのも無理はありませんね(笑)

前川

 情報は、発信側は提供したら相手はたぶんわかってくれるだろうと満足してしまいがちです。しかし、実際に確認してみるとよくわかっていないことが多い。情報を必要とする人に理解していただくことを大切にした情報発信に努めています。

黒川

 前川社長は当然のようにお話しくださっていますが、私はそこに背景、理由があると思うんですね。例えばキロサイド®は歴史の長い癌の治療薬ですが、使い方を間違えると大変重い副作用があります。使う量も患者さんによって10倍ぐらい違うことも多く、細心の注意を払っての使用が必要です。そうした薬を大きな事故もなく、安全に30年、40年と使いこなしている。見えるところ、見えないところで大変な苦心をされているはずです。それが今日の、会社の姿勢や実績に結びついていると思い ます。

-Webサイトでは、アルコール依存症の啓発ページも非常に充実しています。

前川

 薬の効果を最大限に高めるためには、患者さんやご家族の皆さんの対象疾患に対する正しい理解のうえで、適正に使用されることに尽きると思います。そのため、最近の製品を中心に、患者さんやその家族に向けた関連の疾患啓発活動をWebサイトで展開しています。
  アルコール依存症の断酒補助剤であるレグテクト錠®は、中枢神経系に作用することで飲酒欲求を抑える日本初の薬剤です。心理社会的治療を併用することで高い有用性が確認されています。患者数は100万人以上と推測されていますが、病院にかかっていない方々も多くおられます。そうした観点からもご家族や周囲の方への疾患に対する正しい理解の啓発と、医療関係者への情報提供により、受診行動までつなげていければと思っています。

黒川

 御社のWebサイトは、血が通っていて温かいというか、手を差し伸べられているという感じがします。これも前川社長を先頭に、現場の皆さんまで考え方が一貫しているからだと思います。

-協議会の活動として「くすりのしおり®」を作成しています。これも先ほどお話しに上がった「共通言語」の一つだと思いますが、どのように評価されますか。

前川

 まず、いいなと思うのが頭の部分。「薬には効果だけではなくて副作用があります」。このフレーズこそまさに共通言語で、患者さんにも理解いただけるように書かれています。これは薬を使う主役はあなたですよというメッセージだと思います。

黒川

 おかげ様で現在の登録数は1万4,000種類を超えました。150社の皆様にご協力いただき、現在使用されている薬のほとんどをカバーしています。登録数の多さ、参加企業の多さが利用者の信頼につながり、さらなる拡大につながっています。

疾患啓発も企業の大きな役割

-協議会の活動拡大に向けた取り組みとご提言をいただければと思います。

黒川

 薬のリテラシーを全体として向上させることで、適正に使われる状況を早く実現することが基本です。薬を社会に提供する幅広い立場の方々、新薬のメーカーはもちろん、ジェネリック医薬品メーカー、一般用医薬品メーカーとの協業も進めています。今後は会費の低減化に努めることで参入障壁を下げ、より多くの会員に参加していただきたいと考えています。

前川

 患者さんとの「共通言語」は、単独の企業では作れません。いま理事長がおっしゃったように、OTCもジェネリックも含めた業界全体で取り組むべき課題です。そしてその中で協議会がみんなをつなぐ役割を果たしてほしいと思います。薬のリスクとベネフィットの両面を、きちんとわかりやすく提供することは製薬業を営む企業の責務です。ぜひ多くの企業に参加してほしいですね。

黒川

 現在、一般社団法人化に向けた取り組みが大詰めを迎えています。参加企業はもちろん、社会に対しても責任と透明性を明確にして、活動をより幅広く深みのあるものにしていきたいと考えています。

協議会がみんなをつなぐ役割を

-最後に読者に向けてのメッセージをお願いします。

前川

 薬の有効性、安全性を最大限に生かすためには、まずは医療に携わる医師や薬剤師の先生方に薬剤をよく理解していただいて、適正に処方していただくことが基本です。当社も日々のMR活動を通して、くすりの適正使用を推進していますが、どうしても先生方は多忙で、また訪問規制の強化もあり、なかなか情報を提供しづらい状況です。MR活動を補完するようなWebを利用した適正使用情報の提供の重要性も増加しています。
  一方でコンコーダンスの観点から、医療のパートナーである患者さんが、疾患に対する正しい知識を持って医療関係者と情報を共有することも大変重要です。くすりの適正使用情報とともに疾患の啓発自体も製薬企業の大きな役割であり、情報の充実に引き続き取り組んでまいります。ぜひ協議会にもいろいろなアドバイスをいただきたいですね。

黒川

 患者さんに届く情報提供には長年のご苦心と積み重ねがあることを、今日あらためて勉強させていただきました。協議会も25年努力してきましたが、まだまだ取り組むべきことが山積しています。御社を手本に、これからも全力で走っていきたいと思います。