トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.10 キッセイ薬品工業株式会社 代表取締役会長 兼 最高経営責任者 神澤 陸雄氏

RAD-AR News Vol.25-No.3(2014.11)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。第10回は、キッセイ薬品工業の神澤会長との対談です。売上に対する研究開発費が大きい同社のユニークな取り組みをご紹介いただいたほか、設立初期から協議会活動を見守ってきた神澤会長より、今後の活動拡大について力強い提言をいただきました。

信州・松本が育む、
研究者の志と創薬へのこだわり

信州松本が育てた創薬研究開発型企業

-まず黒川理事長からキッセイ薬品工業に対する印象をお聞かせください。

黒川

 まず思い浮かぶのは信州松本、上高地の地です。きりりとした、四季に恵まれた土地にすっくと立つ新薬企業というイメージを学生のころから持っています。
 医薬品で言えば、リザベン®やウテメリン®といった、現在も医療を支える優れた 医薬品を世の中に安定供給してこられました。長野県は健康優良県として日本に冠たる存在ですが、まさにそのような土地柄にふさわしい企業だと思います。

神澤

kanshajo

 ありがとうございます。当社は1946年に、信州・松本市で生まれました。松本は空気も水もきれいで自然環境に大変恵まれており、製薬会社にとって理想的な場所だと思っています。製薬企業の本社は東京、大阪に集中する傾向がありますが、 先代の会長は、「将来も本社は松本に置く」という強い意志を持っていました。当社は地域に育てていただいた企業だからです。
 設立当初は、生薬が豊富な地の利を活かし、非麻薬性の鎮痛剤開発からスタートしました。以来、現在に至るまで「研究開発なくして製薬企業にあらず」という信念を持ち続け、たとえ規模は小さくとも創薬研究開発型企業を志向し、ユニークな薬剤、患者さんのお役にたつ新薬の開発にこだわり続けてきました。ライセンス品も含めた自社開発品の売上は全体の90%以上を占め、研究開発費は売上の約20%となっています。

黒川

 生活習慣病や泌尿器、それから女性医学の領域でユニークな研究開発を進めておられますね。

神澤

 当社が設立に寄与した神澤医学研究振興財団は、女性に特化した基礎研究を支援する、日本でも類のない財団です。疾患は集団の年齢構成によって発現率が大きく左右されますから、研究対象もそれを見極めて設定しなければなりません。当財団では、我が国の少子高齢化の未来を先読みし、周産期・生殖医療はもちろん、ゆりかごから墓場まで、女性の一生をターゲットに基礎研究を支援してきたのです。
 研究や開発で大切なのは、研究者一人ひとりの志です。寝食を忘れて研究に取り組むサイエンティストが研究しやすい環境をつくる、あるいは人材育成に取り組む。それが会社や経営者の役割だと思っています。

改正薬事法が示唆するもの

-御社の創薬へのこだわりによって生まれた薬を、ユーザーの適正使用まで、いかにつなげるかが本日の主題ですが、協議会の調査では子どもたちとその保護者が必ずしも薬を適正に使用していない実態がわかっています。これをどう捉えておられますか。

神澤

 残念のひと言です。薬の最終目標は、患者さんに投与され、その薬の持つ本来の効果を発揮し、症状の軽減、治療、あるいは現状を保っていくことにあります。研究開発に大変な時間をかけ、膨大なデータを集計し、承認をいただくことで初 めて世に出すことができる。そこまで厳格に来ていながら、最終局面で活かされていないのは残念でなりません。

黒川

 おっしゃる通りです。売上に対し約20%の研究開発費を投じているとのことでしたが、最後の瞬間に正しく使われなければ、すべてが徒労に終わります。
 今回の薬事法改正で、国民の役割が新たに盛り込まれたのは、薬の良いところを 引き出し、リスクを抑えて使うために、国民も当事者として一緒に考え、日ごろの服薬行動に反映してほしいという意識の表れだと思います。

神澤

 裏返して言えば、今回の薬事法の改正は、我々供給サイドも医療機関も、もう少し患者さんの実態に気を付けて、正しく薬が使われるところまで責任を持つべきだと示唆しています。また、医療用、OTC、配置薬、漢方薬を問わず、製薬メーカーが 共通認識を持って、この法律の趣旨に則って行動していかなければなりません。
 そこで改正薬事法を契機に、協議会には広範な製薬会社を巻き込んで、加盟社をもっと増やしていただきたいですね。この方向にムーブメントを巻き起こせる数少ない組織のひとつが、くすりの適正使用協議会だと思います。

黒川

 ありがとうございます。患者さんあるいは国民の立場からみると、「自己責任」と言われても、やはり専門家のサポートがなければなかなか難しいと思います。協議会としては、各社で取り扱う医薬品に共通して必要な基礎知識の獲得、あるいは信 頼でき、アクセスし易い個々の医薬品情報の整理などでお手伝いできると考えています。

文部科学省・薬剤師会を巻き込んで

-くすりの適正使用の実現のためには、将来を担う子どもたちへの教育が非常に重要です。協議会では学校の先生や薬剤師を対象とした出前研修に取り組んでいます。

神澤

kanshajo

 全国に申告納税制度の維持・発展を目的とした、「法人会」という公益法人があります。私もその一つの会の会長を務めており、この会でも学校向けの出前授業に取り組んでいます。納税という責任をきちんと果たすことが、国や国民の暮らしを良 くするという意識を、できるだけ小さいうちから身に付けてもらうことが大切だと考えているからです。
 くすりの適正使用の啓発活動もそれと似た部分があります。現在、中学・高校を対象としている医薬品教育は、製薬を志す人材育成という観点でも大いに賛成です。ただ、それに加えて小学生のころから親子で学ぶ取り組みがあってもいいですね。

黒川

 おっしゃるとおりです。子どものころからの教育が大切ですね。

神澤

 また、要望に応じて赴く受け身の姿勢ではなく、もっと能動的に活動してほしいと思います。自分たちだけで完結するのではなく、大きなところでは文部科学省、現場に近いところでは薬剤師会を巻き込み、様々な関係者と一緒に進めていくこと が大切です。
 文部科学省と厚生労働省の了解を得た上で、保健体育の授業で必修授業として最低でも年1回、市町村単位で啓発していく。講師は地元の薬剤師さんや、学校薬剤師さん、あるいは校医の方にお願いする。そこまで徹底すれば、協議会の初代会長である内藤 祐次氏が提唱された、適正使用の「夢」が実現できるように思います。これはあくまで国民のため、患者さんのための活動です。協議会は忙しくなるでしょうが、更にやりがいのある仕事になると思いますよ。

黒川

 薬剤師会の皆様とは、新たな協力関係をつくるべく行動を起こしているところです。今日いただいたご提案も、早速具体的なかたちに持っていければと思います。
 おっしゃるとおり、行政をはじめ公的機関との連携は、協議会の重要な課題の一つです。その実現のためには、より多くの製薬企業が加盟し、より透明性の高い組織にしていかなければなりません。一般社団法人化のような、組織としての格を上げていく努力も併せて行っていきます。

効果よりも副作用を先に伝えるべき「薬」

-キッセイ薬品工業では、くすりの適正使用を推進する様々な取り組みを行っておられます。ご紹介いただけますか。

神澤

 新薬メーカーは、国が定めた厳格なルールのもと、承認申請時や市販後のデータを通じて、くすりの適正使用につながるプロセスをきちんと踏んでいます。しかし、そうしたデータを薬剤師さんや患者さんにフィードバックする精度をもう少し高め ていく必要があると考えています。
 例えば当社では、医療機関向けの情報提供として、MRが携帯するiPadを用いた安全性情報提供システムを独自に構築しています。提供する安全性情報は、副作用の件数、重篤性、転帰などを一目で確認できる一覧表の「副作用プロファイル」と、個別症例を確認できる「ラインリスト」です。医療従事者に対してデータをその場で提示できるシステムを持つ会社はまだ珍しいと思います。
 モノを売る際にメリットを優先して伝えるのは商売の鉄則です。しかし生命に直結する薬は、まず副作用から伝えるべきだと思います。それがくすりの適正使用につながり、ひいてはその薬の良さを使う方自身に引き出していただけると信じています。薬は、効き目が強いだけではだめで、適正使用ができて初めて完結します。まさに薬のエンドポイントなのです。

MRのアイデアから生まれたパッケージの工夫

黒川

 医療用医薬品のパッケージ(医薬品カートン)でも、ユニークな取り組みをされておられるそうですね。

神澤

 はい。当社のパッケージにはミシン目が入っていて、製品名や製造番号、使用期限、バーコードなど、在庫管理上必要な情報が記載された部分をカード状に切り取ることができます。薬局で箱から出して調剤棚に補充しても、カードを一緒にして おくことで有効期限などが確実に確認できる仕組みです。

黒川

kanshajo

 (現物を見ながら)確かに簡単に切り取れるようになっていますね。

神澤

 これは実はMRから出てきたアイデアです。それまで毎回ハサミで切り取って使用していた薬剤師の先生方には非常に好評です。この工夫で、2010年には日本パッケージングコンテスト ジャパンスター賞にも選ばれました。意匠登録も取りましたが同業他社にも使用していただいています。医療機関のためになることですから。

黒川

 これは社会共通の財産ですね。神澤会長率いるキッセイ薬品工業の人間愛、哲学の発露と言えましょう。

神澤

 そこまで大層なものではありません。しかし、薬というものを真剣に考えることで出てくる発想であり、偶然生まれたものではないと私は思っています。 
 もう一つ、妊婦の患者さんに対する情報発信の工夫を紹介しましょう。切迫流・早 産治療薬ウテメリン®のPTPシートにQRコードが印刷されています。患者さんは、スマートフォンの読み取り機能を利用して、疾患や薬について解説したサイト「まっててね。わたしの赤ちゃん」にアクセスすることができます。IT環境に慣れた妊婦さんの目線に合わせた情報提供です。

黒川

 いずれも素晴らしい取り組みです。良いと思ったこと、必要と思ったことを妥協なくきちんとやり遂げる姿勢は、どの会社でもできることではありません。

神澤

kanshajo

 ありがとうございます。ただ、1社だけの取り組みには限界があります。ぜひ、協議会には改正薬事法を契機に、製薬業界の音頭を取っていただきたいですね。決してプレッシャーをかけるわけではありませんが、責任は重いですよ。協議会という 組織のためでなく、国民全体のために行うのですから。

黒川

 今回の法改正の精神や、今日お話しいただいたような製薬企業のご努力が、医療の第一線、あるいは患者さんが服用される瞬間にきちんと実るように、何ができるかを改めて考えていきたいと思います。

薬事法改正のタイミングを活かし、事業の拡大を

-最後に、協議会の今後の活動への期待をお聞かせください。

神澤

 それぞれの薬によって、適正使用のあり方は異なりますが、統一的に対応できる部分も多いはずです。そこを協議会が、日本製薬工業協会や日本製薬団体連合会などと連携して支援していく。そういう構図を薬事法改正の熱が冷めないうちにつ くり上げてほしいと思います。
 くすりの適正使用を通じて国民の健康に貢献していく、この協議会の理念は、当社の経営理念「純良医薬品を通じて社会に貢献する」「会社構成員を通じて社会に奉仕する」とよく似ています。メーカーと協議会、立場上の表現の違いはありますが、 薬というものを本当に真剣に考えれば、自ずと出てくる理念なのでしょう。
 協議会のように、製薬企業が参加して適正使用の取り組みを推進する組織があるのは、世界でも日本だけです。その点、この協議会の存在は、IFPMA(国際製薬団体連合会)でも十分誇れると思います。更なる 活動の拡大を期待しています。

黒川

 協議会設立25周年を迎えた今年は、薬事法の改正という大きな節目の年です。キッセイ薬品工業をはじめ、皆様に力添えをお願いしつつ、素晴らしい薬が、一人ひとりの患者さんの中で大きく花開くよう頑張っていきたいと、決意を新たにいた しました。
 今日、神澤会長は、協議会の存在意義を松本の風景のようにくっきりと描き出してくださいました。そのサジェスチョンをしっかり噛み締め、日ごろの業務に反映させ、「協議会があってよかった」と思っていただけるような団体をこれからも目指してまいります。