トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.8 田辺三菱製薬株式会社 代表取締役社長 土屋 裕弘氏

RAD-AR News Vol.25-No.1(2014.5)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。第8回は、田辺三菱製薬株式会社の土屋社長との対談です。患者さんのニーズに応える医薬品を率先して世に送り出してきた田辺三菱製薬株式会社の創薬と育薬の考え方や製薬企業のあるべき姿などをテーマに、議論は大いに盛り上がりました。


薬のライフサイクルマネジメント、育薬が、
薬の価値と信頼をさらに高めていきます。

アンメットメディカルニーズに応えて

-黒川理事長は、田辺三菱製薬さんについてどのような印象を持っていますか。

黒川

 私が子どものころから、田辺製薬さんはマルゴ(○が五つ)のマークでなじみ深く、一般用医薬品、医療用医薬品を問わず大変お世話になってきたイメージがあります。そして、三菱化学さん、ミドリ十字さん、吉富製薬さん、東京田辺製薬さんという、それぞれ独自の領域で貢献されてきた企業が一緒になり、そのシナジーを十分に発揮されておられる会社です。

土屋

 田辺製薬は創業336年、日本では一番古い製薬企業で、世界でもE.メルク社さんに次いで2番目だそうです。
 田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併して6年半になります。現在、日本の製薬業の発祥地、大阪・道修町の旧田辺製薬の跡地に新本社ビルを建設中です。

黒川

 336年という長きにわたり、御社が存在感を発揮されてきたのは、その時々で社会のニーズに的確に応えてきたからに他なりません。最近では低分子医薬から抗体医薬まで、日本の企業の中でもトップを切って開発に取り組まれ、非常に尊敬を集めておられますね。

土屋

 アンメットメディカルニーズに応えることにこだわり、ユニークな薬を創製してきたのが特徴です。カルシウム拮抗薬という概念を世界で初めて生み出した狭心症・高血圧治療薬ヘルベッサー®、急性脳梗塞後の神経保護薬ラジカット®、多発性硬化症治療薬イムセラ®、そして現在承認を待っている2型糖尿病治療薬(SGLT2阻害剤)カナグリフロジン。これらの薬は日本薬学会の創薬科学賞を受賞しています。

黒川

 それぞれがその領域の草分け的存在ですね。新しいもの、より役に立つものに積極的に取り組んでいかれる姿勢 は、これこそ道修町精神なのかなと感じます。

国民・国・製薬企業の視点の違いを活かす

土屋

 私は常々、「夢のある新薬をつくって、夢のある企業を実現したい」と話しています。研究者をはじめ社員、患者さんとご家族、医療関係者など、薬にかかわるいろいろな人の夢が詰まった薬を、世の中に数多く送り出していきたいと思っています。
  忘れてはいけないのは、我々はヒトに投与される薬をつくっているということです。研究室でいくら動物に効いていると喜んでいても、世の中に出してみたら期待したほどには効かないということもあり得るわけです。世の中に出してからその薬の本当の価値が試されるのです。

黒川

 使われていく中で薬を育てていくということですね。
 ただ、そうして大切につくった薬が、正しく使用されなかった瞬間に皆さんの苦心が水の泡になってしまいます。適正に使用されず、もし効かなくてそれを薬のせいと言われるのはやはり悔しいことです。
 今回、改正薬事法で、有効性の意味でも安全性の意味でも「国民の役割」に注目して、適正使用への参加を促したことは極めて大きいインパクトと言えますが、土屋社長はどのようにお考えになりますか。

土屋

 かつては患者さんが医師や薬剤師に病気や薬について聞くことは少なかったのですが、いまは必要な情報がすべて 公開されています。いわば、患者さん自身が治療に参加し、共通の情報で一緒に考えることができるようになったわけです。
 患者さんの役割を法的に明記したことはおっしゃるとおり、大変意義あることです。ここで大切なのは、国民、国や行政、医療現場、製薬企業などそれぞれの視点の違いを活かしてどのように適正使用の実現に取り組んでいくかということだと思います。一企業でできることは限られていますので、やはりそういう情報を束 ね、有効に活用できる協議会の役割は大きいですね。

黒川

 ありがとうございます。製薬会社がそれぞれ事情のある中で、協議会は二つの共通する部分でお支えできると思います。
  一つは、新薬からジェネリック医薬品、一般用医薬品まで、幅広く適正使用の実現のための普及啓発をしていくことです。幸いジェネリックメーカーからも賛同を得て、1社新しく会員になってくださったところです。
  もう一つは、いま規制改革会議や内閣府が中心になって、国民一人ひとりが自分自身の健康を財産として育てていくために、いろいろな提案を行っています。そうした事例を広く共有・展開するお手伝いです。三菱ケミカルホールディングスグループさんが進めている、自身の健康状態を手軽にセルフチェックできるサービスも、自ら健康を維持できる環境づくりの先駆的な取り組みです。ご紹介いただけますか。

土屋

 「じぶんからだクラブ」ですね。ドラッグストアの店頭で自己採血し、数滴の血液サンプルを検査機関で検査し、身体の健康状態を知るための13項目のセルフチェックができます。忙しくてお医者さんに行けない人もそこに行けばすぐ自分の健康状態がわかります。
 早めに治療すれば医療費が抑えられますから健保にもメリットがありますし、もちろんご本人にとっても良いことです。活動を拡大していきたいですね。

黒川

 メタボ予備軍の高脂血症が2,200万人、45歳以上の男性の6割が高血圧といった厚生労働省のデータを見ますと、特に生活習慣病などの慢性疾患に対しては、自分の体はできるだけ自分で守るということがこれから更に求められてくるのだと思います。
 そこで重要な役割を果たすのが薬剤師です。6年制を卒業した薬剤師による、医療薬学の見地からの患者さんに寄り添った適切なアドバイスで、いまご紹介いただいたような仕組みがうまく回っていけばと思います。医師にとっても、負担が軽減されるでしょう。薬剤師や薬局が持つポテンシャルを活用していく取り組みとして、非常に意義の深いご提案ですね。

抗体薬の未来を拓いたレミケード®

黒川

 協議会では、第一線で活躍される薬剤師、医師、それから患者さんが信頼できる薬の情報を、わかりやすく簡潔に伝えるために、「くすりのしおり®」を作成しています。田辺三菱製薬さんが世に出されている薬の392品目中349品目、89%を掲載いただいています。

土屋

 改めて数字を見ると、やはり品目数が多いですね(笑)。恐らく日本一だと思います。前身となる企業が6社あり、扱う製品は、低分子医薬品、ワクチン、麻薬、抗体医薬品、ジェネリック、OTCなど多岐にわたっていますからね。品目整理を行っていますが、供給する責任がありますからなかなか進まないのが現状です。また、すべての薬について安全性をはじめとする情報をいかに現場に届けるかということにも 苦労しています。

-くすりの適正使用に向けた社内での具体的な取り組みをご紹介いただけますか。

土屋

 薬は使われれば使われるほど情報が集まり、適切な情報を適切に集めたものを皆さんに提供することでその価値 はますます上がっていきます。つまり「育薬」です。
 その一例が抗体医薬の未来を拓いたレミケード®です。最初の適応はクローン病でしたが、まもなく関節リウマチなど適応が追加され、用法・用量も随時変更されました。レミケード®はベンチャーから導入した抗体医薬で、抗体医薬をクローン病やリウマチで使うのは初めて。そのため、クローン病で3,000例、リウマチで5,000例の全例調査を行いました。これだけの規模での全例調査は例のない取り組みで、どうなるかと思いましたが、逆にこの全例調査で医療機関や医師から大きな信頼を得ることにつながりました。おかげさまで発売から11年で、抗体医薬製品を合わせて、平成25年度の売上は1,000億円に達する見込みです。

黒川

 最初に徹底した調査を行ったことが、薬自体の価値を高めることになったということですね。

土屋

 そういうことですね。効能追加や適応症の増加、また、用法・用量がより便利になりました。最もライフサイクルマネジメント、「育薬」が成功した例の一つだと私は思っています。薬があるべき姿は、ドラッグフリー、その薬をもう使わなくてよい状態にすることです。いろいろな臨床試験のデータが集まり、レミケード®については、そうした研究成果も発表されています。
 それから、専門部隊として組織したレミケード部で、MRなど多くの優秀な人材が育ってくれたことも成果のひとつです。いろいろな意味で非常にうまくいった薬剤だと思います。

アジアで唯一の創薬国として

-薬や創薬・育薬の価値を浸透させるという意味では、子どもたちへの教育がカギを握っているのでしょうか。

土屋

 そうですね。くすりを反対から読むとリスク。薬は効果とともに副作用もありますが、大切なのは副作用や薬害といった負の側面から入るのではなく、薬は本当に必要なものであること、世の中の役に立つものであることをまず伝えることだと思います。

黒川

 中学校では平成24年度から、高等学校では25年度から、保健体育でくすり教育が始まっています。協議会では、保健体育教諭、養護教諭の先生などを対象に、出前研修を行い、先生方が自信を持ってご指導いただけるようサポートしています。
 今回の法改正を機にさらに働きかけを強めていきたいと考えています。これは、我々のような団体がしっかり取り組まなければいけないことだと思います。

土屋

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 そのような活動を通して、中学生、高校生が薬に興味を持ち、自分も製薬企業で薬をつくりたいとか、あるいは薬剤師さんになりたいとか、そういうことにつながっていくことも非常に意味があることですね。
  医療費の増加をいかに減らすか、だれがそれを負担するかという問題で、常に薬剤費削減はターゲットにされてしまいます。しかし、医薬品産業は省資源、省エネ、知識集約型で高付加価値な産業の一つであることをぜひご理解いただきたいと思います。日本は新薬が出てこないと言われますが、上位100品目の中で日本はアメリカ、スイスに次いで3番目。アジアで唯一の創薬国です。
 医薬品産業は日本で重要な産業のひとつだということは若い人にも知ってほしいと思います。

黒川

 大変な困難とリスクのある中で、製薬企業が社会の役に立とう、患者さんのそばに寄り添って新しい治療法を確立しようと努力されている。医薬品産業全体のレピュテーションを上げるような活動を協議会として、体系的に行わなくてはなりませんね。

土屋

 個々の企業としてではなく、業界全体として薬が果たしている役割の大きさを知ってもらい、理解を得ることが大切です。

適正使用活動の草分けとして

-最後に理事長から、協議会のこれからの活動についてお伺いしたいと思います。

黒川

 今年、東和薬品株式会社さんに加入いただいて、会員社は20社になりました。
 今日お話を伺って思ったのは、日本には、使命感を持って社会に貢献していこうという製薬企業が御社をはじめ数多くあるということです。育薬、リスクマネジメントという観点から、産業界、患者さんの両方に、仕事の領域を広げていきたいと思っています。

土屋

 今日、理事長とお話をして、協議会の活動内容や使命を改めて知りました。ただ20社は決して十分な会員数とは言えません。こうした活動は費用対効果の問題ではありません。製薬メーカーにはすべて加盟していただくのが望ましいと思います。

黒川

 協議会に加盟することが、一つのステータスとして評価されるよう我々自身の活動を高めていかなければいけないと考えています。本日伺った御社の数々の草分け的な取り組みを見習い、我々も適正使用の草分けとして努力してまいります。その中で改めて協議会が評価され、21社、22社と加盟企業を増やしていくこと。これが協議会設立25年目に取り組むべき仕事です。