トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.6 大日本住友製薬株式会社 代表取締役社長 多田 正世氏

RAD-AR News Vol.24-No.3(2013.11)掲載

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。 第6回は、大日本住友製薬の多田社長との対談です。
社をあげての東日本大震災に対する支援や、適正使用情報の提供力向上のためのShink活動など、相手の目線に立って物事に取り組む会社の活動から、くすりを使用する現場でのあるべきアプローチの姿が語られました。


MR活動から震災支援まで
あらゆる場面で相手の気持ちを汲み、
ニーズを見極めた適正使用の推進に
取り組んでいます

公教育でくすりについて学ぶ機会を

黒川

有機化学や合成の優れた技術を活かし、精神神経用剤やインターフェロン製剤などの開発で我が国の公衆衛生の向上に貢献してきた住友製薬と、 抗てんかん薬などの領域で100年以上にわたり、安定した力強い活動を展開してこられた大日本製薬。両社が合併した2005年以降、御社が優れたシナジー 効果を発揮され、今日の隆盛に至っているのは多田社長のリーダーシップによるものと感銘を受けております。
さて、多田社長はくすりの適正使用の実態をどうとらえていらっしゃいますか。

多田

kusuri-musium

一般の方々、そして未来を担う子ども達のくすりの使用が、必ずしも適正ではないと伺いましたが、これは協議会の存在意義を浮き彫りにしていますね。医薬品を適正に使用していただけなければ、開発にかけた多大な労力と 費用が無に帰してしまいます。くすりのメリットが得られないばかりか、マイナスの効果しかなくなることもあります。
我々製薬企業は、医療機関の皆さまに対し積極的に情報提供活動を行っていますが、患者さんや一般の方々がくすりをどのように服用するべきかという情報提供についてはどうしても限界があります。
その意味で、協議会が進めている一般国民や患者さんに対する啓発活動は大変重要です。特にくすりとサプリメントの違いを理解していない子どもたちの実態は驚くべきことです。くすり教育の必要性を痛感します。

黒川

多田社長がおっしゃられたように、研究者や社員の方々が一所懸命説明をして、くすりを正しく、そしてリスクを少なくして使用していただこうとしている。その努力が正に使われようとする段階で水泡に帰すことは、まことに残念なことです。これは製薬企業に共通した認識と思います。
子どもの認識についてもまさにご指摘のとおり。超高齢化社会の到来を迎え、健康や医療に割けるリソースが少なくなっていく中で、国民一人ひとりが自身の健康を財産と考え、それを守り増進していくという観点から、公教育の中でくすりについてきちんと学ぶ機会を確保することは大変重要です。我々が取り組んでいる出前研修も、その一助になればという趣旨で展開しています。

多田

当社では、「くすり教育」をはじめとした子どもたちへの支援を社会貢献の重要な一つの柱に位置づけています。ご紹介したい取り組みとして、東日本大震災の被災地を中心とした支援活動があります。宮城県気仙沼市の大島を対象とした「すこやかプロジェクト」では、薬剤師資格を持った当社の社員が直接現地に行き、小学校、中学校で正しいくすりの使い方、手洗い方法についての授業を実施しました。
また、宮城県の6地域8カ所、福島県の13地域16カ所においても、仮設住宅におられる方々を健康面で支援する各県の生活支援相談員の方々を対象に、「宮城・福島すこやかプロジェクト」として、正しい手洗い方法やくすりの服用方法などをお伝えする勉強会を実施しました。まさに協議会の基本的理念に沿ったものだと思います。

大切なのはニーズを見極めること

黒川

3月11日の地震発生直後から、一刻も早く患者さんが必要な薬物療法を受けられるよう、迅速に社内の薬剤師さんを派遣され、大いに活躍されたとも伺っています。

多田

社内の薬剤師を対象にボランティアを募り、1チーム3人を基本に計24チームが1週間単位で順番に被災地を訪問しました。主な活動は、各製薬会社から送られたくすりを薬効分類ごと、病院や診療所や避難所内の仮設診療所ごとに仕分けするお手伝いです。そうした活動を半年近くにわたって続けられたのは、社員の社会貢献意識の高さによるもので、大変誇りに思っています。日本薬剤師会と宮城県薬剤師会から感謝状もいただきました。

黒川

社員のお一人おひとりのお気持ちを具体的な行動に移すことができたのは、会社の文化や空気、そして多田社長のリーダーシップがあってのことです。あらためてすばらしい会社だなと感じています。

多田

過分なお言葉ありがとうございます。震災の際には、知人などの伝手を通じて、現地が必要とする支援について把握したうえで行動に移したことが効果的なサポートに繋がりました。また、必要な物資は全部持ち込んで自活するようにしました。こちらの都合だけで人を送り込んでも右往左往するだけになりますから。

黒川

独りよがりの支援ではなく、相手の目線で物事を見て、必要としていることに対し、自分たちの強みが活かせるところは何かを考えて手を差し伸べたのですね。求められる支援のあり方について、あらためて勉強させていただきました。

自由意志でかかりつけ薬局を持つということ

-かかりつけの薬剤師、薬局を持つことの重要性についてはどのように認識されていらっしゃいますか。

多田

私個人としての考えですが、現状では、そもそも「かかりつけの薬剤師」という意識を多くの方々が持っていないのでは、という気がします。この状況を変える契機として、たとえば患者さんにとって「くすりの出口」である薬局を法制的に一元化することが考えられるかもしれません。これにより、くすりの重複を防ぎ、医療費抑制につながる可能性はあり得ると思います。
ただし、そのような強制が必ずしもよいとは思いません。患者さんが自由意思でかかりつけの薬剤師さんを持つことが、結局は自分のためになるということを理解していただく啓発活動を行っていくことが重要です。

黒川

おっしゃるとおりです。かかりつけ薬局を持つことを「上から目線」でお願いしてもうまくはいきません。患者さんにとって、自身の健康や医療について気軽に相談できるのはメリットでもあります。それが結果として医療費の削減につながるのではないでしょうか。
現在の日本の医療システムでは、保険の中で医療機関を自由に選ぶことができます。信頼できる先生を見つけ、信頼が置ける薬局、薬剤師からくすりを受け取ることができるのは、他の国ではあまり例のない、素晴らしい制度だと思いますので、その良さをぜひ努力をして広め、患者さん側からかかりつけ薬局を持つことが当たり前の状況をつくっていきたいものです。

安全性の徹底を企業文化に

-協議会が公開している「くすりのしおり®」について、大日本住友製薬さんの製品は日本語版で9割以上、英語版で半分程度が掲載されています。

多田

kusuri-musium

製薬会社として、くすりを市場に提供させていただく時点で、患者さんにとってわかりやすい服薬の説明書を準備しておくことは当然のことです。当社の日本語版の作成率は93%ですが、これは100%を目指していかなければなりませんね。英語版についても、これまで日本の患者さんが海外にくすりを持っていくことを想定して汎用薬を中心に進めてきましたが、日本に来られる外国の方が増えてきている現実も踏まえ、作成を進めていく必要があると思います。

黒川

私は今も時々添付文書を読む機会があるのですが、ひとつ読み終えるのに大変な努力を要します。患者さんにすべてのくすりの添付文書を読めというのは、まったく地に足の着いた議論ではありません。
御社の血糖降下薬「メトグルコ®」の「くすりのしおり®」には、「絶対に2回分を1度に飲んではいけません」と記されています。くすりを服用する際に絶対に欠けてはならないことが端的にまとめられています。最低限、A4版のこの内容がわかれば、くすりのよいところを引き出し、リスクを最小限にとどめた使用ができるわけです。こうした資料の蓄積は、一つの社会の知的財産と言えます。

多田

当社はMR活動においても、適正使用の啓発が極めて重要だと考えています。平成23年10月に適正使用情報の提供力向上を目的とした「Shink」という社内プロジェクトがスタートしました。
Shinkは、SafetyとThinkを掛け合わせた造語で、副作用情報など安全面についてMRが考える、また医療機関の皆さま、患者さんに考えていただくための取り組みです。この2年間で、当社の企業文化として浸透が図られてきたと感じます。
また、「メトグルコ®」に関しては興味深い事実があります。「メトグルコ®」は、特に腎機能が低下している方に対して乳酸アシドーシスという重篤な副作用が起こるリスクがあります。上市にあたり、リスクを正しく理解していただいたうえで処方をしていただこうと、約5万件に及ぶ医療施設に対し、当社のMRがすべて訪問して、徹底した適正使用と患者さんへの指導をお願いに上がりました。そうした活動が先生方にご評価いただき、通常のプロモーションとは異なる取り組みながら、結果的には多くの患者さんに対して臨床現場で使われるようになったのです。

黒川

受け手側の姿勢に立って活動される姿勢が背骨として一本すっと入っている。そこを先生方も評価されたのでしょうね。素晴らしい取り組みだと思います。

-協議会の活動を拡大していくための 方策について、考えをお聞かせください。

黒川

お陰様で昨年来、正規会員1社、賛助会員1社に新たに加わっていただいたところです。
今秋の臨時国会で審議されると伝えられる薬事法改正(案)で、医療関係者から患者さんへの説明だけではなく、患者さん自身が副作用の存在など医薬品に対する理解を深め、自ら納得したうえで医薬品を使用することなど、果たすべき「国民の役割」が初めて明記されます。法案が成立すれば、我々がますます活躍できる場が広がるのではないかと思います。

多田

実は2年前の震災当時、私は協議会の存在を強く意識していませんでした。くすりの適正使用の推進を主目的としている協議会のことをもっとよく知っていれば、一企業の取り組みとしてだけではなく、会員会社を巻き込んだ、もっと大きな活動として展開できたのではないかと思います。我々は被災地支援を会社の名前を売るために行ったのではないのですから。

黒川

そこなんですね。ダイレクトに企業名や製品名が表に出るのではない。その趣旨に賛同していただき、サポートを賜りつつ、患者さん主体の活動ができる、それこそが我々でなければできない強みです。

多田

kusuri-musium

そのとおりです。1社よりも団体で取り組んだ方が良い。そして、協議会は適正使用の推進や啓発を専門にすすめるために設立されたのですから、外資系製薬企業さん、ジェネリックメーカーさんにももっと加入していただきたい。くすりの適正使用はあらゆる製薬企業に関係することです。 

それから、当社Webの健康情報サイトは、協議会のサイトとリンクしています。製薬企業各社はもちろん自社のサイトをもっていますが、多くの会社が協議会とリンクすることで、適正使用のいわば「総本山」が協議会であるということを、一般の方々にも広く認識していただくことにつながるのではないでしょうか。
もう一つ、くすりの適正使用という意味では、高齢化が進むにつれ、介護士の存在が今後クローズアップされてくると思います。現状において、服薬は介護士の責任の範囲内にはありません。しかし、家族と並んで患者さんにもっとも近い立場にいる介護士さんがそういう知識を持ってくれたら、くすりの適正使用の状況は大きく改善されると思います。そうしたところに啓発活動のアプローチも考えてみてはいかがでしょうか。

-最後に、読者の方々に向けてメッセージをお伺いできればと思います。

黒川

今日のお話を通じて、あらためて協議会の努力すべき方向についてご示唆をいただきました。
製薬企業や当協議会を含む、医療業界の関係者に求められるのは、患者さん自身が持っている力を発揮して、病を治し、社会の場に戻り期待される役割を果たすための総合的なプロセスに貢献することだと思います。製薬企業でなければできない貢献もたくさんあるように、協議会としても我々にしかできない貢献をしっかり見つめ、責任を果たしていきたいと思います。活動範囲をジェネリック医薬品や一般用医薬品の領域まで広げ、それぞれの特質を活かしながら、患者さんが1日も早く健康を回復し、職場や学校に戻っていただくための下支えに邁進してまいります。

多田

くすりの社会的な意義やその価値は、つくったところではなく、お使いいただくところに出てくるということをあらためて認識させていただきました。
我々製薬企業としても、薬剤師さんをはじめ、患者さんに一番近いところにいる方々に対する働きかけをもっと行っていく必要があります。協議会にはぜひ、リーダーシップを取って率先して活動に取り組んでいただくことを期待しています。

黒川

ありがとうございます。協議会の大事な活動の一つに、しっかりとした科学的、薬剤疫学的なベースを持ったリサーチに基づいて、その方向性や意見を定めていくことがあります。 こうしたリサーチは、特定の製品に利害関係のない我々が得意とする領域ですので、今後もよき伝統として取り組んでいきたいと思います。

-ありがとうございました。