トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.5 第一三共株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 中山 讓治氏

RAD-AR News Vol.24-No.2(2013.8)掲載

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。 第5回は、ワクチン・ジェネリック・OTC医薬品など、既存の新薬メーカーの枠を超えた新たなビジネスモデルを追求している第一三共株式会社の中山社長との対談です。 第一三共のさまざまなチャネルを生かした情報交流についての議論を通して、くすりの適正使用についての情報発信のあり方をお話しいただきました。


さまざまなチャネルで
適正使用の重要性を発信していこう

くすりを確実に服用していただくために

-まず、くすりの適正使用に対する現状について、お考えをお聞かせいただきたいと思います。

黒川

まずは第一三共さんの思い出についてお話しさせてください。 私は大田区の生まれで、当時電車の窓から三共さんの品川工場をよく見かけました。工場の外壁に、「三共クロロマイセチン」の広告が大きく掲げられていて、「これで赤痢やチフスが治るのだな」と思った記憶があります。その後、医療にかかわる仕事をするようになって、最初に工場見学をさせていただいたのも品川工場です。抗がん剤の「マイトマイシンC」のアンプル詰めを、当時から宇宙服みたいな服を着てやっておられて、その製品管理体制に感動しました。 第一製薬さんの施設については、現在私が役員を務めているドラッグ・インフォメーション・アソシエーション国際学会の会合を、約20年前に江戸川区の研究所で開かせていただきました。当時まだ珍しい産官学の三者連携と国際親善に貢献されている姿勢に感心した覚えがあります。 その後、「メバロチン®」や「クラビット®」など画期的なくすりを世の中に出されました。昔から大変あこがれ、尊敬し、親しみを持っている企業です。

中山

ありがとうございます。当社の企業理念は、「革新的医薬品を継続的に創出し、多様な医療ニーズに応える医薬品を提供することで、世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」 ことです。くすりは生み出されるだけでなく、患者さんを助け、お役に立って初めて意味があります。多大なコストと研究者の努力によって生み出されたくすりが、正しく服薬されないということになると、本来の効果が得られないばかりではなく、場合によってはマイナスになることもあり得ます。ですから、くすりの適正使用は我々にとって極めて重要な問題ですし、協議会さんの活動はとても大事な活動です。

来場者の興味を引き出す「くすりミュージアム」

-くすりに対する理解を深める活動の一環が、本社に併設されている「くすりミュージアム」ですね。

中山

kusuri-musium

協議会の調査では、子どものくすりの適正使用に問題があるということですが、それは、普段健康な子どもたちが、くすりに興味を持ち、くすりを理解する機会が少ないことが原因のひとつだと思います。 くすりミュージアムは、小学生~高校生をメインターゲットに、一昨年にオープンしました。目指すゴールのひとつは、来場された方にくすりの主作用と副作用の両方についてよく理解していただくこと。容易なことではありませんが、社会の中でくすりが持つ意味合いを深く理解してもらうにはそこまで深堀しなければいけないと思っています。また、日本で製薬のために頑張っている人がたくさんいるという事実を、くすりミュージアムを通じて、もっと広く一般の方々に知っていただきたいと考えております。

黒川

ミュージアムが開館してすぐにフランスの友人と2人で訪問しました。内容はもちろん、演出や画面の精細に感動した友人が、展示内容に釘付けだったのをよく覚えています。 今日、お会いする前にあらためて見学させていただいたのですが、一段と充実した、メッセージ性の高い内容になっていたことに感服しました。古典的な博物館スタイルではなく、ダイナミックなインタラクションで、来場者の興味を引き出す、そういう思いが込められた大変優れた一つの試みだと思います。学校の先生も自信を持って子どもたちを連れて来られるでしょう。第一三共さんのくすりにかける熱意に触れることができました。

中山

展示内容は、当社の女性社員が中心となって知恵を絞ってくれました。来場された多くの方にきちんと理解していただくことを意識した運営を心がけています。また、定期的にバージョンアップを図り、よりわかりやすさを追求しています。

黒川

小中高の時代に、くすりについてしっかり覚えることは一生の財産と言えます。ミュージアムを訪れる子どもたちは幸せですね。我々も、中学校学習指導要領の改訂を基にしたくすり教育のためのベーシックなマテリアルを、製薬企業の皆さんのお力添えを得ながら作成しご活用いただいています。公教育の一環として、社会の中で活躍する土台を形成する時期に、くすりについての正しい知識、有効性やそれに伴うリスクなどを理解して社会に臨むことは、長寿社会の中でその重要性がさらに増していると思います。

中山

くすりの適正使用の重要性を訴えるメッセージは、くすりの適正使用協議会や日本製薬工業協会、あるいは個々の企業が努力して、さまざまな場面で発信していくことが重要です。なかでも、医療や製薬についてまったく知識を持っていない方、特に子どもに対していかに伝えるか。最低限、基本的なところ、使用方法や服用の頻度を納得して使ってもらえる理解がとても重要です。

情報へのアクセス経路を広げる

-続いて、くすりの適正使用について薬剤師さんが果たす役割をどのように とらえるべきでしょうか。

中山

薬剤師さんは、ある意味でくすりの適正使用の最後の守り手です。薬剤師さんの協力が得られなければ、一番大事なところですべてが水の泡になってしまいます。複数の病院にか かり、複数の薬局からくすりをもらう患者さんもいるようですが、くすりには相互作用がありますので、トータルでアドバイスしてもらえるかかりつけ薬局を持つことは必須ですね。

黒川

高齢化、医療資源の枯渇などの問題が待ったなしの状況の中で、薬剤師が従来の守備範囲を一歩も二歩も超えて、患者さんの最善の利益のために知恵を絞らなければならない時代 です。薬物療法が目指す効果を上げるために、薬剤師には、本質的な情報を相手の吸収する力などを見極めて伝え理解してもらう能力が求められていると思います。  薬剤師のくすりの説明にも生かしていただこうと、協議会ではくすりに関する内容をA4判1枚にまとめた「くすりのしおり®」を発行し、患者さんの服薬行動に反映させるお手伝いをしています。第一三共さんの製品は333品目すべて掲載いただいています(表)。ご協力に心より感謝申し上げます。

中山

当社にとって「くすりのしおり®」は、MR 活動や、製品情報について直接お客様の意見を伺う相談窓口(製品情報センター)などと並ぶ、情報発信の重要なツールのひとつです。大切なのは、医療関係者から患者さんまでさま ざまな立場のお客様が、当社のくすりの情報をいろいろなチャネルからアクセスできるようにすることです。当社の「くすりのしおり®」が一般向けのサイトからアクセスできるようにしているのも、少しでも情報の窓口を広げたいという思いの表れです。

動画で吸入方法を解説

-第一三共さんのWebサイトでは、抗インフルエンザウイルス剤「イナビル®」 の吸入方法を動画で紹介していますね。

中山

「イナビル®」は、1回の投与で完了します。逆に言えば、そこで吸入もれがあると効果は期待できません。「イナビル®」の吸入デバイスが独特であることも鑑み、確実に吸入方法を理解していただくための方法を社員たちが突き詰めて考えた結果が動画という形式です。よいアイデアを出してくれたと思っています。さらに、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語でも理解できるようにしています。 また、専門家以外への情報発信の例として、認知症や逆流性食道炎などの疾患啓発にも積極的に取り組んでいます。逆流性食道炎は実際に感覚はあってもそれとわかっていない患者 さんが結構多いので気付きを促すことが狙いです。認知症については患者さんのご家族に早期発見と治療の重要性を理解していただくことに焦点を当てています。

黒川

専門家を介さない医薬品の理解・疾病の理解をどう進めるか。少し象徴的な話ですが、いま薬事法の改正議論が行われています。協議会副理事長の藤原と御社の長野さんのお二人が検討委員会の委員として、医薬品産業界を代表して参加しました。委員会の議論の中で見えてきたのは、くすりを適正に使うステークホルダーとしての患者さん、一般の方の目線の重要性です。 四半世紀前から出版されている『医者からもらった薬がわかる本』が今も書店では平積みになっていることからもわかるように、くすりについて知りたいというニーズは患者さんに確かにあります。社会と専門家、ユーザーの間にあるギャップを埋めるために、社会心理学的なアプローチや医学・薬学以外のサイエンスや目線を動員して、全体としてそのくすりについての 見方、理解度を上げていくことが重要なのではないかと思います。特に患者さん自身が疾患や治療薬についてよく理解し、病気に立ち向かうためにくすりを使うといったマインドの醸成は、製薬企業1社1社のご努力もさることながら、私どもがお役に立てる部分が多いと思っています。

中山

医薬品業界は製品の安全に関する明確な情報伝達のルールがある分、案外みんな安心してしまいがちです。当社では、生活あるいは医療の場にいらっしゃる方とダイレクトにコミュニケーションし、いただいた情報をVOC(ボイス・オブ・カスタマー)活動などを通して、いち早く社内で有効に活用しています。これは製薬企業にとってものすごく大きなメリットで す。適正使用を含む情報発信、情報交流を義務としてとらえるのではなく、アイデアをいち早くいただき、よりよい企業活動を行っていくためのありがたいご意見と受け止めるべきだと思いますね。

客観的なリサーチによる情報に期待

-今後、協議会が会員企業を拡大し、活動や影響力を広げていくための取 り組みについて、黒川理事長から意気込みをお聞かせください。

黒川

私どもの仕事は、医薬品というリスクとベネフィット双方あるものを社会でうまく使いこなしていくための「基礎工事」です。新薬はもちろん、ジェネリック医薬品や一般用医薬品まで軸足を広げた活動を行っていきます。そのためには、製品について一番熟知し、具体的な使い方や情報を用意され、かつその製品の最大化に苦心されている製薬企業の皆様にもっと会 員として加わっていただく必要があります。現在の会員は19社ですが、中期活動計画を立て倍増に向けて努力してまいります。もちろん、企業だけでなく、患者さん、あるいは薬剤師会や 医師会、行政との連携も今後、一層追求していきたいですね。

中山

供給側にとどまらない連携という動きが社会の中で起きています。そういう現状への対応は、業界が一緒に取り組んでいかないと追いつけません。協議会の取り組みをもっと広げ ていただきたいし、公平なリサーチにより、私たちが知らないデータをぜひ明らかにしてほしいと思います。。

黒川

ありがとうございます。協議会の大事な活動の一つに、しっかりとした科学的、薬剤疫学的なベースを持ったリサーチに基づいて、その方向性や意見を定めていくことがあります。 こうしたリサーチは、特定の製品に利害関係のない我々が得意とする領域ですので、今後もよき伝統として取り組んでいきたいと思います。

企業と異なる視点を生かして

-最後に、読者の皆様に向けてのメッセージを、本日の対談のご感想も含めてお話しいただければと思います。

中山

日本という社会が高齢化し、しかも自由化の波にさらされる中で、医療制度も当然変化してくるでしょう。患者さんが自分で健康やくすりに対する意識を高めていただかなければならないのは時代の必然です。我々は、従来どおり、医療関係者の皆様にはMRや製品情報センターなどの窓口を通じて情報を提供していきますが、やはり企業から見える範囲は偏る可能性があります。企業と異なる視点で、健康を守り、くすりの価値を高める協議会の活動に大いに期待しています。

黒川

本日は、一般の方々の目線の大切さや、協議会のリサーチへの期待といったお話から、大きな助言をいただきました。今後一層、協議会の活動に一同邁進してまいります。

中山

ぜひ会員数をたくさん増やしていただければと思います。

黒川

そのように懸命に努力しますので、今しばらくご辛抱ください。本日はどうもありがとうございました。