トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.4 興和株式会社 代表取締役社長 三輪 芳弘氏

RAD-AR News Vol.24-No.1(2013.5)掲載

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。
第4回は、医療用医薬品やOTC医薬品(一般用医薬品)などファインケミカル分野のみならず、繊維、機械、建材などさまざまなフィールドで事業を展開する興和株式会社の三輪社長との対談です。
ワールドワイドで展開する企業のトップとして、またOTC医薬品の普及に努めた立場からのスケールの大きな問題提起に、対談は大いに盛り上がりました。

        

利便性、安全性、
そしてグローバルの観点から
くすり教育を推進しよう

        

グローバルで安全管理体制を確立

-まず、興和株式会社のくすりの適正使用に対する取り組みの全体像についてご紹介いただけますか。

三輪

当社は、くすりの適正使用の推進について特に重視している企業であると自負しています。医療用医薬品では、世界30カ国以上でグローバルな安全管理体制を実施しております。未知または重要な安全性情報が適切に検出され、収集した情報を早期に報告し評価し対応に至るサイクル強化に努め、関係各機関、医療現場との積極的な意見交換をしております。例えば、当社が開発した高脂血症治療薬のリバロ®は、欧米、アジア、中南米、中東の各国で使用されていますが、安全性に関する問題が発生した際には、各地域にいる専門部隊からの情報を日本の安全管理部門に集約し、日本が中心となって迅速に対策をまとめ、現場へフィードバックしていきます。
OTC医薬品についても中国で展開していますので、医療用医薬品と同様にさまざまな情報を国内外で共有し、生活者に正しいくすりの使用をしていただくよう努めています。また、第1類のOTC医薬品はすべての製品で生活者向けの情報提供用の小冊子を作成しています。

黒川

視野を世界に広げ、抜かりのない対応をとっておられることは素晴らしいと思います。医薬品に限らず、光学機器、繊維製品などさまざまな事業を展開され、他に例のない総合力を活かして、くすりの適正使用推進活動に貢献いただいています。

三輪

当社は繊維問屋として創業以来、これまでさまざまな事業活動を展開してきましたが、「お客様のために役立つものを提供する」という商売の基本の姿勢は常に一貫してきました。売りっぱなしで後は知らない、ということではどのような事業も長続きしないでしょう。その中でも、くすりという製品が特に難しいのは、患者さん一人ひとりに個人差があることです。安全性や有効性を追求するのは当然ですが、万一への対応、アフターケアが欠かせません。

くすり教育で伝える二つのこと

三輪

医療用医薬品に関しては最大限の注意を払っていますが、医療用医薬品は医師が処方し薬剤師が調剤してくすりの適正使用を説明しながら患者さんに渡します。問題はOTC医薬品です。パッケージや説明書の細かい文字をすべて読む人のほうが少数派だと思いますし、2錠飲むところを4錠飲んだら2倍よく効く、2倍早く効くと考える人もいるわけです。やはり生活者に対して早期からのくすり教育、啓発が重要だと思いますね。

黒川

おっしゃるとおりと思います。当協議会ではくすり教育を進めるにあたって、二つのことに重点を置いています。一つは、若い人が社会に出てから健康や医薬品、病気に関する情報を積み上げていくためのくすりの基礎知識、すべてのくすりに共通する事項を選んで伝えるということです。もう一つは、世界のトップクラスの頭脳をもつ方々が膨大な時間と費用をかけて生み出した努力の結晶であるくすりは、正しく使われて初めて有効性と安全性のバランスが保たれるという事実を伝えることです。こうした考えのもと、当協議会では中学校教諭を対象とした出前研修や教材作成のほか、今年4月施行の新学習指導要領にのっとった高校用教材の開発を進めてきました。くすりの適正使用の啓発という意味ではある程度、礎を築くことができたと思っています。

三輪

素晴らしいですね。私が会長を務めていた日本OTC医薬品協会でも、数年前になりますが中学生向けのDVD教材を作製しました。また、日本一般用医薬品連合会でも、くすり教育について根本的な取り組みを推進しています。教材づくりについては、くすりの適正使用協議会さんとも相互に意見交換しながら、最良のものをつくり上げていくことが重要ですね。
 セルフメディケーション教育は今後、間違いなく大きな役割を果たしていきます。日本一般用医薬品連合会と日本薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会では今年2月に、文部科学省・厚生労働省に対して薬系大学のコアカリキュラムにセルフメディケーション教育を取り入れることを求める要望書を提出しました。日本で医療財政の赤字を減らすというと、打ち出の小槌であるかのようにすぐジェネリック医薬品の話が出てきますが、薬剤師教育を含めさまざまな取り組みを並行して行っていく必要があると思います。

黒川

医療財政を何とかしなければいけないというご意見、全くそのとおりだと思います。高脂血症は予備軍も入れれば約2,200万人。高血圧症も65歳以上の男性の6割、女性でも4割といわれています。身の回りの誰かが慢性疾患を抱えているという状況で私たちは暮らしているわけです。従来の保健・医療の枠組みのままで取り組むことはもはや不可能です。セルフメディケーションの推進でパイオニア的なお仕事をされている御社に、ぜひ我々も協力させていただきたいですね。

※日本一般用医薬品連合会: OTC医薬品(一般用医薬品)を活用したセルフメディケーションの普及などを目的に、OTC医薬品を製造販売する5団体が結束して2011年に発足。 一般用医薬品業界を代表する団体として幅広い情報発信を行っている。

OTC医薬品の適正な使用を担保するために

三輪

OTC医薬品をめぐる近年の大きな変化として、46年ぶりに医薬品の販売制度が改正され、安全性への配慮等に応じて、第1類、第2類、第3類に区分されました。ここで注意したいのは、薬剤師の説明が必須の第1類以外について、専門家の説明が不要になったわけではないという点です。くすりを安全に服用してもらうための環境整備の一つとして、「登録販売者」の資格も設けられたわけです。今年になってインターネットによるOTC医薬品販売のニュースが注目されていますが、くすり教育が十分にされていない状況で、だれが責任をもってくすりを販売するのか、非常に危うさを感じます。くすりの適正使用という観点が軽視されることがあってはなりません。

黒川

健康を取り戻すために、ベネフィットとともにリスクの伴うくすりを、用心深く、緊張感をもって扱う。それについて一人ひとりが、あるいは日本全体がどう取り組んでいくのかが問われています。教育の方法論としては、私たちが作製したDVD教材を使っていただくなどさまざまな方法があるわけですが、時代の変化に遅れないように努力を続け研鑽していく、当協議会の役割はまさにこれに尽きるのだと思います。

薬剤師教育の充実がスイッチOTC普及のカギ

-患者さんがかかりつけ薬局をもつこと、そこで果たすべき薬剤師の役割についてはどのように思われますか(図1)。

三輪

患者さんの利便性と安全性、そして医療財政の三つの観点から、かかりつけ薬局が果たす役割は重要です。例えば、その患者さんのことをよく理解している薬剤師さんがいて、病院に行かなくても適切なものを勧めてくれる。簡易な検査がもっとできるようになれば、病医院に通院しなくても対処できるものなど、セルフメディケーションの機会も増えるはずです。あるいは発売後パテントが切れ、ジェネリックが出て10年以上経過し、安全性が確認されたくすりを、薬局で薬剤師が扱うスイッチOTCとして供給するなど、国民にとってプラスになる方法について知恵を出し合っていくことが必要でしょう。
現在、スイッチOTC医薬品とすることが適当な成分として129品目が公表されていますが、このうち、11品目しかまだ承認を受けていません。スイッチOTC化を進めるためには、薬局等での検査・測定体制の整備、そして薬剤師教育の充実が重要であると思いますが、薬剤師の育成を医師と同じ6年制にしたのは、革新的な大英断です。

※スイッチOTC: スイッチOTCとは、医療用医薬品として長く使用され、その有効成分および安全性が確認されたものを、薬局やドラッグストア等で購入できるように、OTC医薬品に転用(スイッチ)した医薬品のこと。

黒川

ある患者団体の方の話ですが、過去に医師からもらったくすりと違うので、そのくすりと前のくすりとどう違うのか薬剤師に聞くと、薬剤師さんが大きい本をばっと開いて、ここのメチル基がメトキシ基になったと(笑)。その方に、いったい薬学教育はどうなっているのかと聞かれ、返答に困った覚えがあります。6年制になり、そのあたりも大きく変わってきていると思います。また、検査については、多くの患者さんが血圧を自己測定しています。高脂血症や糖尿病なども測定の手法が確立されれば、薬局が果たす役割もより高まるのではないでしょうか。

わかりやすい情報提供は製薬企業の責任

黒川

当協議会では、薬剤師さんと患者さんのコミュニケーションツールとして、「くすりのしおり®」を公開しています。御社の「くすりのしおり®」の掲載状況は、日本語版が100%、英語版もほぼ100%です(図2)。活動へのご理解とご協力に御礼を申し上げます。

三輪

製薬企業としては最低限の責任だと思います。日本語版は当然として、最初にお話ししたように当社はグローバルに展開していますので、英語版作成も必須ととらえています。新発売の経口糖尿病治療薬「スイニー®」も今後の海外展開に備え、英語版を早めに準備し、掲載しております。

黒川

医薬品の添付文書はどうしても法律の必要性に応えて情報を詰め込んでいくので、出来上がったものは専門家でも読み終えるのに努力を要します(笑)。「くすりのしおり®」はA4判に、くすりの情報の「結晶」を抽出し、絶対に外してはいけないところがすぐに確認できるようになっています。また、患者さんがご自身の病気と使っているくすりについて理解し、病気を克服するうえでお役に立っているのではないかと思います。
 このような媒体、知的な積み重ねというのは網羅率が重要で、できれば医療用医薬品とOTC医薬品、すべてがここで確認できるという段階まで積み重ねることが重要です。内容のメンテナンスや情報の取捨選択、利用の際の気づきなどを取り入れながらより使いやすいものにしてまいります。

アジア・世界を見据え、各団体と協力を

-今後の協議会の活動について、ご意見をお聞かせください。

黒川

私たちはこれからもOTC医薬品から医療用医薬品の新薬、ジェネリックに至るまで、特定の領域に偏らず、教育と情報提供の役割を担っていきたいと思っています。医療用、OTC、ジェネリックまでハイブリッド経営を進めている御社とは、更に協力して協議会活動を推進していきたいですね。

三輪

もちろんです。あえて一つお願いするならば、くすりの適正使用協議会をはじめ、日本にはくすりの安全教育に取り組むたくさんの団体があります。TPPの問題に表れているように、日本の医療・製薬業界も今後、アジア全体、世界全体を見据えていかなければなりません。その際、窓口や団体が多すぎることでまとまらない、決められない状況を生み出してはなりません。医療用医薬品、OTC医薬品、ジェネリック医薬品、最低でもこの三つの領域について、国内で意見をまとめ、窓口を一本化してアジア、欧米と話し合う必要があるでしょう。OTC医薬品については、私が日本OTC医薬品協会の会長を務めていたときに働きかけて、日本一般用医薬品連合会が発足しました。医療用医薬品等についても効率的な仕組みをつくっていく必要があると思います。協議会には、黒川さんという素晴らしい理事長のもと、プロのスタッフが集まっておられます。ぜひ各団体と協力を深めていただきたいと思います。

黒川

素晴らしいご助言をいただきまして、ありがとうございます。私たちも新しい動きをよく踏まえて、さまざまな活動をしておられる団体等に、協議会がどのような活動をしているのか、どのような部分に実績があるのかをご理解いただくことが大切と考えています。

三輪

最後に申し上げたいのは、優れた医療制度・保険制度も国が財政破綻したらおしまいです。破綻しないためにどうしたらいいか、私たちはもっと真剣にならなければなりません。国家があって日々の暮らしが初めて成り立ちます。その基本を忘れないようにしたいですね。

黒川

今日は三輪社長から、世界的スケールのお話をいただきました。三輪社長が進めておられる意義ある活動を側でお支えし、医薬品やそれに伴う情報をうまく患者さんや国民に伝えるために一層努力していきたいと思います。

-ありがとうございました。