トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.3 塩野義製薬株式会社 代表取締役社長 手代木 功氏

RAD-AR News Vol.23-No.4(2013.1)掲載

社会のあり方、医療のあり方が大きく変化している現在、くすりの適正使用はどのような状況にあり、それに対応して新体制となったくすりの適正使用協議会はどのような活動をしていくべきなのでしょうか?
トップの方と黒川理事長の対談企画。第3回は、塩野義製薬株式会社の手代木社長にお話しいただきました。


患者さん、医師、製薬企業のトライアングルで
より良い医療を実現しよう!

安全性を前面に出す、塩野義製薬の情報提供活動

-塩野義製薬のホームページに、「患者さまに適正に使用していただくために、必要な情報を適時的確に提供する」というビジョンが掲げられていますが、ここにはどのような思いがあるのですか?

手代木

当社は現在、創業135年に差し掛かっていますが、良くも悪くも、地味で堅い、従業員一人ひとりがコツコツとやっていく会社という自己認識を持っています。「もっとアグレッシブに活動しては?」という社外の方の声もありますが、プロモーションを行っているのは“くすり”です。
 私どもは医薬品の安全性にフォーカスをあてて、特に医療用医薬品の情報提供では、MR※1が医師や薬剤師などの医療従事者の方々にご案内する際も安全性を中心にお話しさせていただいており、この姿勢を今後も継続していきたいと考えています。
 例えば、当社の肺線維症治療薬「ピレスパR」は、この疾患に対しては世界で初めてわが国で承認された医薬品で、この病気に苦しまれていた患者さんにはいわば福音となりましたが、副作用が非常に出やすく、これを防ぐためには多くの注意事項を守っていただく必要があります。ですから当初は、患者さんに対し十分に説明していただける専門医の先生がいらっしゃる医療機関に絞って本剤の納入を行いました。この試みが奏功し、副作用の中で最も多い光線過敏症の発現率を50%以上から10%くらいまでに抑えることができました。安全性を重視し、前面に出したからこそ得られた成果だと思っています。

※1 MR : 医薬情報担当者(Medical Representativeの略)で、自社の医薬品の適正使用を推進するため医師や薬剤師等の医療従事者を訪問し医薬品の有効性、安全性、品質などに関する情報の提供、収集、伝達等を主な業務とし、高い倫理観に基づき薬物治療のパートナーとして医療の一端を担い社会に貢献することが求められている。

黒川

患者さんの最善の利益を考えた事業展開のあり方を改めて学ばせていただきました。当協議会はまだ設立20年ほどの団体ですが、塩野義製薬の足跡に学び、頑張っていかなくてはなりません。
 私が鮮明に覚えているのは、塩野義製薬がとても切れ味の良い高コレステロール血症治療薬「クレストール®」を上市した時、そのプロファイルを明らかにするべくアストラゼネカ社との共同作業で約1万8,000例ものデータを収集されたことです。現在、そのデータは日本で最も優れた安全性プロファイルの一つとなっています。私たちは塩野義製薬の背中を見るだけで、エネルギーがもらえる思いがします。

生活パターンの変化にいかに対応していくか

黒川

近年、世の中の疾病構造は変わってきており、医療サービスを提供する側の医師、薬剤師、看護師だけではくすりを最善の形で使い、病気を克服することは難しくなっています。当協議会が行ったアンケートでは、くすりの適正使用は現在、決して満足できる状況にないという結果が出ました。
 この状況を改善するために、当協議会はあらゆる分野の方々と手を取り合っていきたいと考えています。「くすりのしおりR」の作成と発行、養護・保健体育の先生に向けた医薬品教材の提供や出前研修などは、その具体的な取り組みです。

手代木

私はこのアンケートの結果を見て、「現実には、たしかにそうなのだろう」という感想を持ちました。まずアンケートのQ1(図1)では「(処方されたくすりを)だいたい指示通りに使う」という回答が多いようですが、その中には「けっこう正確」という方もいれば、「かなりいい加減」という方もいるでしょう。Q2(図2)の「自分のできる範囲で守れば良いと思う」も、「自分の生活パターン内で、良い意味で適切にやらせてもらっている」というのが実態ではないでしょうか。つまり、くすりが適正に使用されるかどうかは患者さんの生活パターンによってかなり左右されると思うのです。

黒川

最近ではインターネットが日常世界に浸透したこともあり、人々が得られる情報量は増える一方ですが、その質や量はバラバラで、まさに玉石混淆の状態です。くすりは、厳密な科学の下に多くの方の努力が注がれて作られているわけですが、患者さんが服用する最後の段階で誤った用法や用量で使用されれば、それらの努力が消えてしまいます。これは本当に残念なことです。

手代木

したがって、「だいたい指示通り……」「自分のできる範囲で……」という方に、くすりに対する理解をより深めていただくよう、次善、三善、四善の策を提供していくことが必要なのではないでしょうか。そのために、私たち製薬企業はもちろん、くすりの適正使用協議会や日本製薬工業協会(以下、製薬協)、日本製薬団体連合会(以下、日薬連)などの団体も手を取り合っていくべきでしょう。一方で、製薬会社は服薬アドヒアランスの高い1日1回投与の薬剤を開発し、患者さんと我々との合わせ技で解決していく必要があると思います。
 協議会の活動にもある若年層を対象にした医薬品リテラシーの育成と活用は、将来の成果につながる「急がば回れ」の取り組みですね。こういった地道な活動こそ重要です。

症状が取れただけでは、最終的な治療ではない

-くすりの適正使用へ向けて、塩野義製薬ではどのような活動をしていますか?

手代木

当社では、販売している医療用医薬品のほぼすべて(98%)について、日本語版「くすりのしおり®」を用意しています。また、当社では医療用麻薬を扱っていますが、これは必ず正確に服用してもらわなくてはならないため、スティック包装にして余ることなく服薬できるよう、上市後に改良しています。
 また、適正使用の更に先の活動になりますが、日経BP社が実施している「リワーク・プログラム」という、うつ病に苦しまれた患者さんが症状を克服した後、社会復帰するのを支援する活動に協賛しています。これはあるドクターの助言から始まった取り組みで、うつ病は、くすりで治っても、社会に受け入れられなければ再発することもある病気であることから、患者さんや医師、ケースワーカーの方々にも参加いただき活動しています。
 プログラムでは当社製品の名前は一切出しませんが、うつ病に苦しむ方々に少しでも私たちの思いが届けば、という思いで続けています。

黒川

すばらしい取り組みだと思います。塩野義製薬は昔から、TVやラジオでもとても文化的貢献度の高いプログラムを提供されており、製薬産業全体のイメージを高めるご努力をされています。私たちもぜひなんらかのお手伝いをしなくてはなりません。
 現在、当協議会では、ジェネリック医薬品やOTC医薬品などの製薬企業、医薬品部門をお持ちの食品や化学企業および団体などにも会員になっていただくようお声がけしています。こうした方々に会員となっていただくことで、医療用だけでなく広い意味での「くすり」に共通した適正使用の啓発を進めていこうと考えています。

手代木

例えばニキビ薬のような製品を扱うOTC医薬品やサプリメントのメーカーなども、協議会に加入すれば、「くすりの適正使用に高い意識を持つ信頼できる企業」というイメージが培われると思いますし、また、ニキビ薬の適正使用の意識がもっと浸透すれば、誤った使用による悲劇を避けられるかもしれません。
 それに加えて、親御さんたちの意識啓発も重要です。当社は、市販のニキビ薬の誤った使用が原因でニキビが悪化するというような事態を防ぐため、早い段階で皮膚科にかかるようお勧めする「ニキビは皮フ科へ.jp」というキャンペーンをしています。ニキビはお子さまにとっては切実でも、親御さんがそう感じておらず、適切な治療に辿り着けない場合があるのです。お子さまの気持ちも含めてトータルにケアするという考えから、親御さんへのアプローチと教育が必要だと思っています。かなり難しいことですが、今、社内でかなり真剣に議論しています。学校を介してPTAの方と話す機会を作るなど、試行錯誤しているところです。

黒川

先にも述べましたが、現在は情報が氾濫しており、どれが信頼できる情報かが分かりません。「あそこなら間違いのない情報が得られる」という信頼を築くため、スマートフォンの普及などといった情報化の進展もしっかりとキャッチアップして、正しい判断ができるようお手伝いしていきたいと考えています。

患者さんに寄り添う医療を支援していきたい

-最後に、「RAD-AR News」読者にメッセージをお願いします。

手代木

これからの日本は、ライフイノベーションを重要な産業として拡大発展させていく流れがほぼ確実です。日本はアジアで唯一新薬を作っている国ですし、その規模も世界で第3位という優位なポジションにあります。今後も同じように世界の中で活躍していくには、あらゆる面での安全管理や品質保証を維持向上していかなくてはならず、国民全体の意識の向上も不可欠です。くすりの適正使用協議会にはその旗手となって、日本を引っ張っていっていただきたいですね。我々も引き続き努力していかなくてはなりません。  また同時に、パーソナライズド・メディスン(個別化医療)も間違いなく進んでいく中、安全性のコントロールは製薬企業や医師だけでなく、患者さんを含めたトライアングルの中で考えていかなくてはなりません。一歩ずつ、より良い薬物治療に向かっていければと思います。

黒川

おっしゃる通りです。昨年、薬事法改正を前提に10回ほど行われた厚生労働省の「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」が纏めた最終提言では、医薬品がより適切にかつ安全に使用されるためのステークホルダーとして、従来の医療従事者と製薬企業に加え、「患者さん」が新たに同等の立場で追加されました。患者さんにも果たすべき役割と責任があるとした今回の提言は歴史的なことですが、医療従事者と製薬企業が患者さんに寄り添えるような環境を整備することが、今後ますます重要になってくると思います。

手代木

製薬協では昨年から透明性ガイドラインを作成し、製薬企業と医療機関・医師とのお金の流れを含めた関係をホームページ上で開示するという取り組みを行っています。またこの延長で、製薬企業が患者団体とコンタクトするうえでの透明性ガイドラインも作成しました。このガイドラインによって、患者さんがオープンなところで医療に参加できるようになりますが、これは一つのブレイクスルーです。今後は製薬協だけでなく日薬連傘下の企業や卸業者にも同じ取り組みをしてほしいと考えています。

黒川

私が理事を務めるドラッグ・インフォメーション・アソシエーション(DIA)※2では、患者さんの思いやリクエストを製薬企業や行政にどう反映させるかをテーマに議論を行っています。昨年夏の会合ではPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の担当官や「納得して医療を選ぶ会」の方にもプレゼンテーションしていただきました。このようなオープンディスカッションは至極当然のことになりつつあるようです。
 本日は手代木社長のお話しを通してさまざまな示唆をいただき、気持ちを新たにすることができました。ありがとうございました。

※2 ドラッグ・インフォメーション・アソシエーション(DIA)・・・多様な学問分野を持った2万人を超える会員で運営されている国際的科学協会(非営利団体)。会員は主に政府規制機関、学会、契約サポート機関、医薬品・バイオロジー・装置の各業界およびその他のヘルスケア団体から集まっている。

-ありがとうございました。