トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.1 アステラス製薬株式会社 代表取締役会長 野木森 雅郁 氏

RAD-AR News Vol.23-No.2(2012.8)掲載

社会のあり方、医療のあり方が大きく変化する中で、現在のくすりの適正使用はどのような状況にあり、それに対して大きく体制を変えたくすりの適正使用協議会はどのような活動をしていくべきなのでしょうか?
トップの方と黒川理事長の対談企画。 第1回は、アステラス製薬株式会社の野木森会長にお話しいただきました。


人々の目線に合わせ、正しい知識の伝達を

「医薬品リテラシー*の育成と活用」の重要性

-くすりの適正使用の現状を、どのように認識しておられますか?

黒川

当協議会が実施したアンケートでは、一般の方々の6割以上がくすりを医療従事者の指示通りに使用できていないという結果が出ています。小中学生に対するアンケートでも、くすりの正しい知識を持たず自己判断で使っている実態が明らかになりました。こうした現状の背景には、医薬品を正しく使うことの重要性への理解や意識が低いという現実があるからでしょう。医薬品とは、製薬企業のさまざまな方がそのノウハウや経験、知恵、そして「患者さんに早く病気を治してほしい」という思いと努力を注いだ“結晶”と言えます。しかし、患者さん本人が使う段階で正しく使用されていないのは、残念でなりません。

野木森

指示通りに使用されている患者さんが少ないですね。私どもアステラス製薬は、医家向け医薬品を専業としています。新薬のビジネスを展開するために、医薬品のデータを研究開発の過程から販売後にも収集・蓄積し、適正使用の推進に役立てています。しかし、患者さんに医薬品を正しく使っていただかなければ、それらのデータは無駄になってしまいます。アンケート結果には驚きました。特に子供の認識不足には、医薬品に関する家庭内での教育が十分に行われていない背景があるのではないかと思います。

黒川

医薬品に対する知識は、人生の早い時期に身につけておく必要があります。当協議会では、できるだけ若い就学年齢のうちに医薬品に関する知織を提供するための資材や機会を用意しています。

野木森

それは大賛成ですね。医薬品が自分たちの日常生活の中で、どのように役立っているか常日頃感じてもらうことは、製薬企業が努力している仕事が多くの人に理解されるということにつながりますね。

-このような現状を受け、協議会では2012年より5年間の中期活動計画を立てています。特に「医薬品リテラシーの育成と活用」をキーコンセプトとしていますが、どのような狙いがありますか?

黒川

くすりの適正使用の普及は当協議会のミッションです。ただし、「くすりはこう使うべきだ」と上から押し付けるのではなく、一人ひとりが自ら考え理解するような取り組みを行っていきたいと考えています。現在、日本は高齢化社会の進行とともに生活習慣病などの慢性疾患が問題視されており、優れた医薬品だけでなく日常生活全般の改善が求められる傾向にもあります。医療のそうした総合的な取り組みの中で、医薬品はどういった部分を担うことができるのかを追求し、発信していかなくてはなりません。

野木森

それは製薬会社や業界団体の使命でもあると思います。ただ、企業は主として営利を目的としているため、そうした活動をしても誤解を受ける部分もあるのも確かです。だからこそ、協議会のような第三者機関の力が必要だと考えています。

黒川

心強い言葉ですね。とても励みになります。

さまざまな現場で、医薬品の知識を普及

-実際にはどのような活動を行っていますか?

黒川

2007年よりくすり教育の「出前研修」という活動を行っています。これは、当協議会で独自に認定した「くすり教育アドバイザー」が、中学校や高校の保健体育や養護の先生方に医薬品に関する正しい知識や情報をお伝えするものです。認定アドバイザーには情熱のある方が多く、お陰さまで学校側から好評をいただいています。

野木森

大変意義のある取り組みですね。当社が加入している日本製薬工業協会でも、くすりの研究開発や安全性、有効性についての啓発活動を行っていますが、まだ十分に理解いただけるまでには達していないと感じています。「出前研修」のように、教育者を通じて中高生それぞれの教養レベルに応じた教育ができれば、本質的な情報をしっかりと伝えられると思います。

黒川

もう一つ、当協議会の作る「くすりのしおりR」を通じての、患者さんと薬剤師のコミュニケーションやコンコーダンス**の実現にも注力しています。医薬品の添付文書はどれもとても膨大ですが、「くすりのしおりR」はA4サイズの紙1枚に医薬品の有効性や安全性などの重要な情報をコンパクトに記載したものです。製薬企業で安全性情報に携わる方々にご協力いただきながら作り続け、現在約11,000種類、医療用医薬品全体の約7割をカバーするまでになりました。薬剤師の方々には高い評価をいただいており、これを励みに残り3割のカバーと英語版、音声版の普及にも力を注いでいきたいと思っています。

野木森

当社では、製品のほとんどが「くすりのしおりR」に対応していますし、英語版もかなり出来上がっています。同時に患者さんにも「くすりのしおりR」を見ていただけるよう、当社ホームページにも掲載しています。

黒川

拝見しました。かなりユーザーフレンドリーにできていて、どなたでも気軽に見ていただけるようになっていますね。

ベネフィットとリスクの両面を伝える

黒川

現在の医療現場は昔と違い、患者さんと医師が、病気の本質やその治療方法などについてコンコーダンスを実現し、理解と納得の上で治療を開始することが大切であると考えられています。このような流れを強めていくためにも、「出前研修」や「くすりのしおりR」の普及がとても大切だと思うのです。

野木森

くすりを使うのは患者さんですから、私どもも患者さんを最優先に考えた企業活動を行うことが本当の「顧客志向」であると考えています。例えば、製品名が錠剤そのものに刻印されていて患者さんが飲み間違えないようにしたり、あるいは何のくすりかよくわかるような製剤上の工夫をしています。また、当社の骨粗鬆症治療剤「ボノテオR錠50mg」は4週に1回服用する経口剤ですが、月に1回の服用では次の服用が1カ月後になるので患者さんも忘れやすい。そこでパッケージの中にシールを入れ、次の服用日のシールをカレンダーに貼ることで、服用時期を間違えないよう配慮しました。この工夫が評価され、包装業界で最高峰の 「木下賞」***を受賞し、こうした活動に手応えを感じています。

黒川

すばらしいですね。さらに、コンコーダンス実現の上で決して忘れてはならないのは「ベネフィット・リスクコミュニケーションの推進」です。すべてのくすりは、有効性を示す「ベネフィット」と、副作用などの「リスク」を持っています。この両面をうまく伝えなくてはならないと思っています。

野木森

その通りです。一般の方の多くは、医薬品は安全で、どのように服用しても健康に影響はないと思われている傾向がありますね。しかし、くすりとは本来、体に変調を与え、その変調によって体を良い状態へ持っていくもの。その変調作用の悪い面が副作用であり、その二面性が「ベネフィット」と「リスク」です。それを「くすりのしおりR」のようにコンパクトにまとめたもので発信していただけるのは、とてもありがたいですね。

さらに活動の幅を広げていきたい

-協議会の今後の展望を教えてください。

黒川

現在、当協議会は製薬企業19社に会員企業として活動いただいています。今後は、ジェネリック医薬品やOTC医薬品を専業としている製薬会社にも医薬品リテラシーの重要性に共感していただくとともに当協議会活動への参画をお願いし、共に努力していきたいと考えています。

野木森

先発医薬品の後には必ずジェネリック医薬品やOTC医薬品の展開という流れがあります。協議会の活動もそれらの業界の方々に協力していただくことで、医薬品リテラシーの底上げにつながりますね。

-「RAD-AR News」読者にメッセージをお願いします。

野木森

当社の医薬品ビジネスの意義は、社会に貢献できることだと思っています。今後もこのことを見失わずに、新薬の開発や適応の拡大に努めていきたいと考えています。「RAD-ARNews」読者の皆様には、このような当社の姿勢をご理解いただき、これからもお引き立ていただきたいと思っています。

黒川

今後も医薬品リテラシーの向上という使命に励み、アステラス製薬をはじめとする製薬会社の皆様の努力が花開く土壌も整えていきたいと考えています。読者の皆様には、我々の活動に対し、忌憚のないご意見や助言をどんどんいただきたいですね。今日はありがとうございました。

-ありがとうございました。